新聞の社会面などを注意して読むと、〈叙位 正五位○○大学名誉教授〉といった小さな記事を目にすることができる。現在の位階制度では、最高の正一位から従八位まで16段階が存在するが、実際には、どんな人物に位階が与えられているのか。ジャーナリストの武冨薫氏が解説する。
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最高位の「正一位」は歴史的に見ても、生前に与えられたのはわずか6人しかいない。1891年に“太政官制最後の太政大臣”だった三条実美公爵に贈られたのが最後である。
織田信長と豊臣秀吉には大正時代に「正一位」が追贈されている。これは当時の政府が国会対策として貴族院議員だった元藩主たちの祖先に位階を奮発し、その流れで各藩の藩祖が仕えた信長、秀吉に最高位を与える必要があったという説がある。死後に追贈されたのも1917年、織田信長に贈られたのが最後になっている。戦後は「正一位」は1人もいない。従って現在、事実上の最高位は2番目の従一位とされる。
戦後、従一位を贈られたのはわずか6人。うち吉田茂氏、佐藤栄作氏ら4人が総理大臣経験者だ。並み居る総理大臣経験者の中でも、在任期間が長いことなどが従一位の目安とされる。
この正一位と従一位は天皇から直接与えられる「親授」とされ、叙位の際に与えられる位を記した「位記」には天皇の御璽(印のこと)と署名、さらに総理大臣の自署が入っている。
正二位には安倍首相の祖父、岸信介・元首相をはじめ橋本龍太郎氏ら多くの首相経験者が叙せられている。従二位は衆参両院議長や最高裁判所長官経験者が多い。首相在任期間が1年未満だった石橋湛山氏、宇野宗佑氏らはこの位階である。また、民間人である経団連会長やノーベル賞受賞者などの事実上の最高位ともなっている。
正三位になると、松下幸之助氏や盛田昭夫氏など大企業の創業者、川端康成氏、横山大観氏など日本を代表する作家・芸術家が、従三位は黒澤明監督、俳優の森繁久彌氏がいる。スポーツ選手では相撲の大鵬が正四位だ。四位以上は勅命によって授与される「勅授」とされ、位記に天皇御璽が押される。五位以下は「奏授」とされ、位記には内閣印と首相の名前が記される。
あの世に行っても、厳然たる序列があるのだ。
【プロフィール】武冨薫(たけとみかおる):1960年福岡県生まれ。永田町、霞が関をはじめ幅広い取材網を持ち、週刊誌に20年以上にわたって記事を執筆している。
※SAPIO2016年1月号