昨今の世界情勢の混沌や、原油安などからドル/円相場は上がったり下がったりを繰り返し、素人には今後の展開をなかなか予測しづらい状況にある。30年以上の経験を持つ為替のスペシャリストで、バーニャマーケットフォーカスト代表の水上紀行氏が今後のドル/円相場の展開について解説する。
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ドル/円は、2011年の東日本大震災の発生により、日本国内すべての原発が停止し、代替エネルギーとして石油や液化天然ガス(LNG)を大量輸入することになったため、日本の貿易収支は赤字に転落しました。そして、ドル/円相場は、貿易赤字になることによって、それまでの貿易黒字の時代とは全く異なる展開となりました。
つまり、グイグイと押し上げるように大幅に上昇した後も、それ程の調整的な下押しがないままに高止まりしました。
これは、貿易赤字になると輸入の方が多くなり、海外への輸入代金支払のためのドル買いが増えるためで、それまでの、物を輸出して代金をドルで受けとって円に換える、つまりドル売りが多かった時代とは全く異なりました。
日銀の金融緩和もあって、2012年から3年半で約50円弱のドル高円安となりました。 ところが、2014年7月から原油が急落し、2014年後半、さらに2015年に掛けて、貿易赤字は劇的に減少しました。これにより、今までの貿易赤字によるドル買いは大きく後退しており、つまりドルの下支えは脆くなっています。
また、ドイツ銀行の巨額債務やフォルクワーゲンの不正問題などドイツ発のリスクが発生した場合、リスク回避の円買いが大きく出るものと思われます。
尚、今のところ高値圏を維持しているのは、まさに3年半という短期間に50円弱もの上昇をしたためだと見ています。たとえて言えば、巨大なタンカーは、曲がるにしても、時間を掛けて方向転換をするようなもので、ドル/円も反転するにはそれ相応の時間がかかるものと思われます。
ただ、いったん下げ始めると速いと思います。当面110円近辺を目指すものと思われます。
ところで、中国の景気後退により、中国向け輸出の減少で貿易赤字が増えるということは、実際に起きています。ただし、原油安による貿易赤字の減少の方が、はるかに貿易収支に与える影響は大きく、貿易赤字の減少は、多少のブレーキはかかったものの、継続するものと見ています。
※マネーポスト2016年新春号