香港の書店関係者4人が中国大陸で行方不明になっている。彼らは習近平指導部を批判する発禁本などを販売したことを理由に、中国当局に身柄を拘束されているとみられる。中国による香港の報道機関への圧力は日増しに強まっているが、書店関係者へのあからさまな弾圧は初めて。香港における言論の自由はいよいよ風前の灯火になりつつある。現地からジャーナリストの相馬勝氏がレポートする。
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香港の中心部、銅羅湾(コーズウェイベイ)。日系大手のデパートや有名なレストランが入った高層ビル、高級ホテルなどが大通りに面し、香港独特の路面電車であるトラムやバスがひっきりなしに行き来する。早朝から深夜まで人通りが絶えることがない香港屈指の商業地区だ。
しかし、1本通りを内側に入ると、2階建てや3階建ての雑居ビルが無数に立ち並び、頭上には派手でけばけばしい看板が目につく。路端には新聞・雑誌のスタンドや屋台が並び、下町的な雑然とした光景が現れる。
その一角の低層ビルには、2階に上るための薄暗い入り口が洞窟のように口を開けている。チラシなどがたまっている階段を上ると、2階に「銅羅湾書店」と書かれた看板が見える。
観音開きのドアを開けると、昼でも煌々と蛍光灯がつくなか、多数の本が目に飛び込んでくる。本の大部分は「習近平」や「江沢民」「胡錦濤」「王岐山」など中国の最高幹部の名前を冠した中国政治の暴露本だ。中南海の内部で繰り広げられている権力闘争が主な内容で、それら幹部と有名女性とのスキャンダルを暴露した本も多数置かれている。これらは、その内容から、大陸に持って入ることができない発禁本だ。
それにもかかわらず、店内には中国から来たと思われる観光客のグループが大きな声を出して北京語(標準語)で話していた。そのうちの1人は「大陸では読めないことが書かれているから、みんなが欲しがるのよ。だから、お土産には最適ね。税関で見つからないよう、うまく隠さなきゃ」と話していた。
また、別の女性は「大陸の共産党の幹部から頼まれて、ある本を探しに来た。香港中歩き回って、なかなか見つからなかったけれども、ここに来たらあった。大陸では庶民も幹部も政治に興味があるのは変わらないわよ」と笑った。