一連の動きが日本に与える影響は深刻だ。中国や韓国は記憶遺産の登録を大義名分として、各国に散らばる中国系、韓国系の住民と連携し、議会や自治体レベルで日本への非難決議の採択を目論む。さらには慰安婦像の設置や旧日本軍の残虐な行いを現地の教科書に掲載させることを求めるだろう。前述した通り、すでにアメリカの各地でその兆候が見られている。
今後も中韓両国は慰安婦の登録をめざして台湾、オランダ、フィリピンなどに共闘を呼びかけ、熾烈な外交戦を展開するはずだ。
慰安婦の記憶遺産登録がまったなしになるなか、日本はどう対応すべきか。「ユネスコへの拠出金を拒否しろ」との意見もあるが、国連を権威ある機関として信頼する世界の国や人々は圧倒的に多い。日本はユネスコから手を引くのではなく、日本人をIACのメンバーに入れるなど積極的に関与して慰安婦登録を阻止すべきだ。
同時に積極的に対外宣伝戦に打って出る必要がある。たとえば、現在の中国が何を行っているか、日本がどういう立場にいるかなどをネット配信して国際社会に訴えるべきだ。実際、私が面会した米大使館の要人は「日本政府関係者がCNNに出演して積極的に説明すべき」と提唱した。政府によるこうしたアプローチも求められる。
対外宣伝戦は今年、ますます激化してゆく。日本は持久戦を覚悟し、粘り強く戦い抜く必要がある。「武器を持たない戦争」に勝利するため、官民一体となって全力で臨まねばならない。
●八木秀次/1962年生まれ。早稲田大学卒業。日本教育再生機構理事長。近著に『憲法改正がなぜ必要か─「革命」を続ける日本国憲法の正体』など。
※SAPIO2016年2月号