ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)世界記憶遺産への「南京大虐殺」関連史料登録に成功した中国が、次に目指すのは韓国や関係国との連携による「慰安婦」関連史料の登録だ。法学者の八木秀次・麗澤大学教授は、「武器を持たない戦争」だと警鐘を鳴らす。
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2015年10月、中国の申請が認められ「南京大虐殺」に関する史料がユネスコの世界記憶遺産に登録された。今後、中国は事大主義で何が何でも日本を叩きたい韓国と手を携え、「慰安婦」の記憶遺産登録を目指すだろう。
歴史問題は現在の国際政治に直結する。中国や韓国が世界記憶遺産に固執する最大の目的は、国際社会に「日本は悪い国」であり、なおかつ「開き直って反省しない国」であると印象づけ、日本の国力を削ぐことだ。
そのメインターゲットはアメリカである。中国は極東の歴史に詳しくないアメリカに一方的な情報を提供し、反日・親中の国にして、日米を分断しようと目論んでいる。その究極の目的は日米安保条約の解消だ。ゆえに歴史問題は日本の安全保障問題と直結する。
中国の狙いはすでに相当、奏功している。韓国ロビーに中国ロビーも協力する形で、アメリカのいくつかの都市には慰安婦像が設置され、2007年に米下院は日本に対する非難決議を出した。
私は2015年2月、米国大使館の要人に求められ、安倍首相の靖国参拝や戦後70年談話の見通しなどについてレクチャーした。この要人はすっかり中国の流布するストーリーに洗脳されており、頭ごなしに「靖国は軍国主義の象徴だ」との見解をまくしたてた。私は「歴史修正主義者」という扱いで当初はひどく警戒されたが、懇々と日本の立場を説明すると徐々に理解してくれた。
歴史問題が非常に厄介なのは、「南京大虐殺」にせよ「慰安婦の強制連行」にせよ、いったん「戦争中に旧日本軍が非人道的な行為をした」というストーリーが世界に流布されると、それに対抗するのが非常に難しくなることだ。史実に基づく穏健な立場で「事実と違う」と主張しても、「過去を反省しない愚か者」として、「歴史修正主義者」という強烈な負のレッテルを貼られ、反論の機会を奪われてしまう。
実際に今回、世界記憶遺産に南京大虐殺を登録するため中国の提出した史料は反論可能なシロモノばかりだが、ひとたび記憶遺産として登録されると既成事実となる。「南京大虐殺」も「慰安婦」も、当事者世代が世を去ると作られたストーリーがひとり歩きし、「虚構の歴史」が「史実」とされてしまう。
中国が日本を貶めるためにこうした「手法」を使うことが効果的だと気づいたのは、ナチス・ドイツの迫害を逃れるため隠れ家で綴られた「アンネの日記」が2009年に記憶遺産に登録された時と推測される。ユネスコの政治利用を思いついた中国は、登録の可否を決定する国際諮問委員会(IAC)のメンバーと接触するなど、何年もかけて周到に準備を重ねてきた。
歴史的根拠の乏しい南京大虐殺を、ナチス・ドイツによるユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)と同列に位置づけ、日本とナチスは同じ穴のムジナという印象を国際社会に広めるためだ。さらに彼らは「日本は歴史を反省せず、タカ派の安倍首相のもと軍国主義的な拡張を続けている」というストーリーを世界中に広めようとしている。