その絶大な権力から「影の総理」と呼ばれてきた菅義偉・官房長官。確かに沖縄基地問題や軽減税率問題、おおさか維新との連携などでその存在感を見せつけてきた。しかし、いくら権勢を振るっていても、官房長官の力の源泉は「総理大臣の権力」を借りたものだ。総理が「NO」といえば官房長官は従わなければならない力関係にある。
安倍晋三・首相も内心、最近の菅氏の専横を見かねていて、身内同然の側近に「みんな菅の顔色ばかりみているんだよな」とこぼしている。
にもかかわらず、首相が菅氏を抑えることができないのは、政権の生命線である「集票マシン」の公明党・創価学会、「憲法改正のパートナー」であるおおさか維新、そして霞が関の3つをガッチリ握られているからに他ならない。
菅氏は創価学会の選挙協力など政治担当責任者である佐藤浩・副会長とは昵懇の間柄で、自民党で唯一、公明党を通さずに直接、学会中枢と話ができるパイプを持つ。おおさか維新とは橋下徹氏や松井一郎・大阪府知事の“後見人”的存在だ。
霞が関に対しては官邸に新設した内閣人事局を通じて各省幹部の事実上の人事権を持ち、一昨年の消費税率10%への増税延期と今回の軽減税率問題で財務省と自民党税調を完全にねじ伏せ、「予算編成権も掌握した」(官邸スタッフ)といわれる。
いまや菅氏の発言力は首相をも凌駕しつつある。事実、安倍首相は大阪ダブル選挙の前、自民党執行部に「きちんと戦わなければ、大阪の自民党勢力は立ち直れない」とおおさか維新との全面対決を命じ、軽減税率導入でも、谷垣氏や財務省幹部たちに「安定財源の枠内で」といったんは対象品目を抑制するように指示していた。
その首相の判断を、菅氏は一存でひっくり返して見せた。
「安倍総理の悲願は憲法改正。夏の参院選で勝てば道筋が見えてくる。そのためには公明党・創価学会との選挙協力、さらにおおさか維新など改憲勢力との連携が欠かせないが、どちらも菅さんがパイプ役だ。党内の不満がどれほど強くても、菅氏の代わりはいないから“こうします”といわれれば総理は従わざるを得ない」(菅側近)
※週刊ポスト2016年1月15・22日号