2017年4月に消費税が10%へと引き上げられる際、「新聞」にかけられる税率が8%に据え置かれる方針が決まった。これを受けて新聞社の業界団体である日本新聞協会は、白石興二郎・会長(読売新聞グループ本社社長)の談話を発表した。
〈新聞は報道・言論によって民主主義を支えるとともに、国民に知識、教養を広く伝える役割を果たしている。与党合意は、公共財としての新聞の役割を認めたものであり、評価したい。この措置に応え、民主主義、文化の発展のために今後も責務を果たしていく〉(昨年12月16日付。一部抜粋)
民主主義と文化の発展は、実に喜ばしい話である。だが、この決定が意味するのはその真逆ではないか。
軽減対象となったことに狂喜乱舞する日本の新聞は、ジャーナリズムと活字文化の担い手であることを自ら放棄したに等しい。新聞は徴税者がちらつかせた果実に自ら飛びついたのだ──。
昨年12月16日に決定された与党税制改正大綱に、〈定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞〉への軽減税率の適用が盛り込まれた。
分かりにくい定義だが、「宅配される新聞の税率は低くて済むが、駅やコンビニでの販売分(即売分)は同じ商品でも10%課税となる」という意味だ。
何とも不思議な文言となった背景を大手紙政治部記者が解説する。
「要は、何とかして新聞社の中心的利益だけを守るための妥協案です。朝日系列の日刊スポーツや毎日系列のスポーツニッポンなどのスポーツ紙は、売り上げの30%以上を即売が占めているので増税による打撃は避けられない。
また、将来的に拡大させていくことが必須の電子版(インターネット版)も適用から外れた。身内を切り捨てておいて、『評価する』というのは理解しがたい。“即売や電子版は活字文化ではない”と言っているようにも聞こえる」
軽減税率論議を巡っては、これまで新聞業界が軽減税率適用を求めてなりふり構わず政界に要請をかけてきた経緯がある。
「大手紙の幹部たちは昨年夏から秋にかけて、会合に官邸幹部らを招き、『(軽減税率導入に消極的な)財務省と新聞業界のどちらを選ぶのか』と極めて直接的なはたらきかけをしていたとの情報があります。
また、財務省が軽減税率の代替案として低所得者に還付する案を検討していることが明らかになった時は、読売を中心に紙面で猛批判キャンペーンを展開した。自分たちを対象にしてもらわないと困るという意図を隠そうともしなかった」(同前)
そうした動きの末に、駅売りや電子版を切り捨ててまで「8%維持」を獲得した大新聞は、その「特別で独占的な恩恵」と引き換えに、政治を正面切って批判できなくなるのではないかと心配になる。
※週刊ポスト2016年1月15・22日号