ノンフィクションライター 野村進氏が2015年に刊行された海外発のノンフィクション作品から読むべき3冊をあげる。
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かつて六本木でホステスとして働くイギリス人女性が失踪し、バラバラ死体となって発見された。この事件について10年越しの取材を続けたイギリス日刊紙の東京支局長による『黒い迷宮 ルーシー・ブラックマン事件15年目の真実』(リチャード・ロイド・パリー著/濱野大道訳・早川書房)は、被害者・容疑者双方の家族の物語を掘り起こして、人間が持つ複雑さに迫り、さらに家族の再生までも描く。
“鬼畜”の所業をこれ見よがしに描くことに終始しがちな日本の犯罪ノンフィクションとは、腰の据え方が違う。
同種のテーマで書かれた作品の中で、群を抜く徹底的な調査報道に成功したのが、元南アフリカ下院議員による『武器ビジネス マネーと戦争の「最前線」』(アンドルー・ファインスタイン著/村上和久訳・原書房)である。表舞台の人間ばかりか、サウジアラビアの王子、ウィーン在住の謎の伯爵、イスラエル諜報機関の出身者など、裏の世界で蠢く死の商人たちを表に引きずり出した功績は大きい。
対立する双方の勢力に武器を売り、それらの武器で自国の国民が殺されるのも想定済みというモラルのなさや、「テロとの戦い」がもたらす「笑いが止まらない」ほどのボロ儲けぶりなど、ショッキングな実態が暴露される。
2005年、巨大ハリケーンに襲われて孤立したアメリカ・ニューオーリンズの大病院では、使える電気や医療機器に限りがあった。極限状況の中、医師と看護師はどの患者を優先して助けるかという究極の判断を迫られ、多数の患者を安楽死させてしまう。
だが、それは殺人ではなかったのか? 事件とその後の裁判の一部始終を描いたのが『メモリアル病院の5日間』(シェリ・フィンク著/高橋則明・匝瑳玲子訳・KADOKAWA)である。今後も大災害が予測される日本にとっても、決して他人事ではない。
※SAPIO2016年2月号