「税は国家なり」の言葉通り、付加価値税(日本の消費税にあたる)を導入して50年近く経つ欧州では、軽減税率は低所得者対策であると同時に、国家政策の基本方針を示す制度として機能している。税制に詳しい立教大学経済学部の郭洋春・教授がいう。
「イギリスでは普通のお菓子は軽減税率の対象外だが、ティータイムに添えるクッキーやスコーンは対象。映画発祥の地であるフランスの場合、映画や観劇の入場料が軽減対象です。
アイルランドでは洋服の中でも子供服だけが税率を軽減される。成長に伴ってすぐに服を買い換えなくてはならない子育て世帯が、安心して子供を育てられるようにする配慮です。軽減税率には“国のかたち”が表われているのです」
その前提に立った時、多くの国が「活字」に軽減税率を設定している意味も重みを増す。ドイツは標準税率19%に対して、新聞、雑誌、書籍は7%。フランスでは標準税率20%のところ書籍は5.5%、新聞と雑誌はさらに低い2.1%。イギリスでは標準税率20%に対し、新聞、雑誌、書籍のいずれも税率ゼロだ。アジアでも韓国(標準税率10%)、タイ(同7%)、マレーシア(同6%)などでは出版物に消費税を課していない。
活字への課税を最小限にとどめる税制は、文化を守ると同時に次世代を担う子供たちへの投資にほかならない。政治的な都合で、子供たちの未来への投資が奪われてはならないのだ。
ところが、日本の新聞業界は軽減税率適用を求めてなりふり構わず政界に要請をかけてきた経緯がある。そうした動きの末に、駅売りや電子版を切り捨ててまで「8%維持」を獲得した。
「新聞にも出版物にも電子媒体にも、活字にはすべて等しく軽減税率が適用されるべきだ」──改めて堂々と訴える。
※週刊ポスト2016年1月15・22日号