プロ野球の表舞台は、華やかな世界である。しかしキャリアを終えると多くの選手は一般人として生活を送らねばならない。表舞台を去り、「第2の人生」を力強く生きる男を追った。(文中敬称略)
日本ハム、巨人で投手として活躍した河野博文(53)は、群馬県で農業に携わっていた。「北京原人に似ているから」と、現役時代についたあだ名は「げんちゃん」。巨人・長嶋茂雄監督が「げんちゃん、げんちゃん」と連呼するフレーズが受けて一躍人気者となった。河野は「長嶋監督には一度も『河野』と呼ばれたことがない」と笑う。
手がける事業は農作物の栽培委託だ。地元の農業法人に指定の作法で栽培してもらい、収穫物を買い取る。そして小売業者に「げんちゃん」ブランド商品として販売してもらう。昨年8月には、自社農作物を食材として使用する居酒屋をオープン。ビジネスは順調に成長している。
「目標はプロ野球選手のセカンドキャリアのモデルケースになることですね。引退した選手が地元に帰って農業で生計を立てる。もちろん、その具体的なノウハウも伝授する。そういうことができるくらい会社を大きくしたい」
週に一度、地元の小中学生対象の野球塾を開き、野球とのかかわりも続いているが、昨年妥結されたTPPに関して「高品質のものを作り続ければ影響はない」と言い切る顔は、農業事業経営者そのものだった。
■取材・文/田中周治 撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2016年1月29日号