北朝鮮が1月6日に「水爆実験」を強行したのを契機に、韓国では急速に核武装論が高まり、与党・セヌリ党の幹部も「北の恐怖と破滅の核に対抗し、韓国も自衛レベルの平和の核を持つべきだ」と発言している。実際、韓国はすでに核兵器を保有する能力を持っているというのが、多くの専門家の一致した見方だ。
国際原子力機関(IAEA)で核査察部門の責任者を務めたオリ・ハイノネン元事務次長が昨年、韓国が「2000年の1~3月に少なくとも3回、ウラン濃縮実験を実施した」と明かした。ウランやプルトニウムは核兵器の原料となる。こうした核物質を使った実験には、事前にIAEAに届け出が必要だが、この時、韓国はその手続きを踏んでいなかった。
実は韓国の核開発の歴史は古い。核抑止論が専門の拓殖大学客員教授・矢野義昭氏が話す。
「朴正煕・大統領時代の1970年頃から10年間、韓国は秘かに核開発を続けていました。最終的に、核の拡散を認めない米国の圧力で開発を断念しましたが、1982年頃にはすでにプルトニウム抽出技術を確立していたと見られています」
その後、朴正煕は暗殺され、韓国は核拡散防止条約(NPT)に加盟した。悲願だった核開発を断念せざるを得なかった朴正煕の苦渋の決断を側で見ていたのが、娘の朴槿恵・現大統領だった。
「原子力発電量が世界4位(2014年)の原発大国である韓国では、使用済み核燃料から出るプルトニウムが常に溜まり続けている。韓国は日本と同じように自国で処理(核燃料サイクル)できるようアメリカやIAEAと交渉しています。
核兵器の製造を目的としたものではないにせよ、いまや核実験すらコンピューター上でシミュレーションできる時代です。韓国の技術力なら核兵器の製造はすでに可能なレベルに達しているといえるでしょう」(同前)
ただし、技術的な問題をクリアしても、現実問題として韓国が核兵器を持とうとすれば、1970年代と同様に米国をはじめとした「核クラブ」からの圧力は避けられず、国際的に孤立するのは必至だ。
現在、NPTにより核保有が認められているのは、米国やロシアなど5か国に限られている。北朝鮮は2003年にNPTからの脱退を表明し、2006年に最初の核実験を行なったが、国際社会から経済制裁を受けて国家財政は窮地に陥っている。
※週刊ポスト2016年1月29日号