世界中がテロの脅威にさらされる中、日本でも首相の肝いりで「日本版CIA」構想などが検討されているが、作家の落合信彦氏は「諜報の世界は“スパイごっこ”ではない」と釘をさす。同氏はイスラエルのモサドなども含め、世界の諜報機関の人々とこれまでに何度も会ってきた。
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日本は一刻も早く諜報機関を作らなければならない。私は30年以上も前から、そう指摘してきた。
諜報機関は一朝一夕にできるものではない。内閣情報調査室や警察の公安、外務省で情報活動に関わる人材を集めてみても、CIAやイスラエルのモサドのようにはならないのだ。
「ミスター・モサド」と呼ばれた2代目長官、イサー・ハレルにかつてインタビューした時のことだ。私が、ハレルに対し冗談交じりで「ショーン・コネリーの007はどう思いますか」と話しかけると、彼はピクリとも笑わずにこう答えた。
「私の部下たちがやっている仕事と比べると、007なんて幼稚園児の遊びのようなものだ」
現実の諜報の世界は、「スパイごっこ」ではない。時には生命を懸けたミッションとなる。ハレルは、モサドにふさわしい人物像について聞くと、こう語った。
「自分から志願してくるような者はダメだ。ジェームズ・ボンドに憧れてモサドに入りたいという者は、仮に敵に捕まって厳しい拷問を受けたら、あっという間に吐いてしまう」
「まず必要なのは、人間としての尊厳と正直さ、そして何より愛国の心だ」
第一線のスパイは、「拷問の訓練」も受けている。どこをどう責めると、一番人間は痛みを感じるのか。日本人の中で、国のためにそんな訓練を受ける覚悟がある者がいるとは思えない。
シリアにモサドのスパイとして潜入して多くの政府高官と付き合い、シリア国防相になる直前で逮捕されたエリ・コーエンは、全身をカミソリで切り刻まれるなど酷い拷問を受けた。
それでもエリは、「自分が死ねば、イスラエルは生き延びる」と考えていたのだろう。生命を懸けた愛国心である。さすが20世紀最高のスパイだ。
今の日本政府は「愛国心を持て」と言っているが、そんな掛け声で彼のような「本当の愛国心」を持てるわけがない。
諜報機関を作り、人材を育てるには時間がかかる。だからこそ一刻も早く立ち上がらなければ、この国の未来は今以上に暗黒の淵に立たされるだろう。
※SAPIO2015年2月号