海外からの評判がすこぶる高い日本のトイレ。実は日本人は、800年も前から、用を足すことに強いこだわりを持っている。鎌倉時代に曹洞宗を開いた道元は、『正法眼蔵』の「洗浄」の巻で、仏道修行者の厠や行脚における“用足しの作法”について、立ち位置からお尻の拭き方にいたるまでを丁寧に記しているのだ。
曹洞宗安穏寺の丹下覚元さんが解説する。
「道元禅師は、『自分とかかわるものすべてを大切に扱うことが自らを大切にする行為である』と説いています。自己と環境は、空気ひとつでも深くかかわり合いながら存在しています。トイレといっても自己の一部なのです。ゆえにトイレ掃除とは、きれい汚いと思う心も洗浄するのです。本当はどこにきれいや汚いという思いの付着物があると思いますか? そこ(心)が洗浄されると、自己も世界も洗浄され、世界中が美しく輝くのです」
こうした考え方は現代にも通じる。校内暴力やいじめ、万引や恐喝が横行し、わずか1年間で160名もの退学者を出した広島県立安西高校では、2001年に赴任した山廣康子校長が、問題行動を起こした生徒に校内のトイレを掃除させることを提唱した。「何でそんなことを」という生徒や教師からの反発は大きかったが、実際にやらせてみると、予想を超える成果があった。
激しく汚れた便器を素手でピカピカに磨き上げた生徒たちは、「やればできる」という達成感や自己肯定感を抱き始め、人生に前向きに取り組むようになり、問題行動が減少した。不良生徒は便器だけでなく、自分の「心」まで磨いたのだった。
人の見ていないところでトイレと向き合っている成功者は数知れない。浮き沈みの激しい芸能界でも、ビートたけし(68才)は修業時代に師匠に命じられて以来、今もトイレ掃除を続ける。郷ひろみ(60才)は次に使う人のために必ずティッシュペーパーで便器をきれいにする。和田アキ子(65才)やおすぎ(70才)もトイレ掃除が大好きだという。
厳しい競争に明け暮れるビジネス界も同様だ。パナソニックの創業者、故松下幸之助さんは自社工場のトイレ掃除を率先して行った。イエローハット創業者の鍵山秀三郎さんは、業績の悪い時期、「トイレの中だけでも社員にホッとしてもらいたい」と、率先して社内のトイレ掃除を始めたら、次第に運気が向いてきたとされる。
※女性セブン2016年1月28日号