千葉県がんセンターで、早期乳がんの患者Aさん(30代)と進行乳がんの患者Bさん(50代)の検体(検査の材料となる血液や組織)を取り違え、誤った診断により、Aさんの右乳房を全摘出する手術をしてしまうという事故が発生した。同病院が昨年12月25日に発表した。
過去15年を遡ると、このような事故は全国各地で起きている。検体の取り違えによる誤診がほとんどだが、乳房だけでなく、誤診によって子宮を全摘出された事故もある。ちなみにこの事故は熊本県でおきたものだが、子宮を全摘出された被害女性はまだ20代、未婚だった。結婚、出産、そんな未来を控えていた彼女は、目の前が真っ暗になったことだろう。
それは、乳房でも同じこと。全摘出した場合、再建手術を受けることができるが、費用は保険適用で数十万円ほど。しかし、より高度な仕上がりを求めると保険は適用されず、100万円以上かかることもある。いずれにせよ、決して安い金額ではない。
乳房、子宮──女性にとって命ともいえる部分を誤診によって切除されたショックはお金で解決できるものではないが、事故によっては裁判で争われたケースもある。せめてもの償いとしての賠償金にも、大きな開きがある。医療事故を専門に扱う、医学博士で弁護士の石黒麻利子さんは、「乳房を誤って切除されたときの損害賠償額は、他の医療過誤事件に比べて低い」と指摘する。
「損害賠償の額は、植物状態になった、普通に歩けない、などといった後遺障害の程度で変わります。乳房の場合、切除されたとしても日常生活は可能なため、後遺障害の認定が難しくなるのです。過去の事例では、切除の必要がない良性腫瘍のある乳房を一部切除してしまったにもかかわらず、賠償金が275万円しか認められていないケースもあります。障害が認定されなければ、金額を決める基準がないため、ケースバイケースになり、300万~600万円が支払われることが多いです」
乳房と違い、内臓の1つである子宮の場合は、損害賠償額を決める基準があるという。
「生殖器である子宮は、全て摘出した場合、後遺障害が認められます。裁判所の基準では、その額が690万円と定められています」(石黒さん)
誤った診断や治療で出産の可能性がなくなる、女性の体の一部を失う──それに対する賠償が1000万円にも満たないのは、あまりに低すぎるのではないか。ましてや、内臓として認定されない乳房は後遺障害の認定すら難しく、賠償額も定まっていないとは。
“子宮がなくても、乳房がなくても、命に別状はないからいいじゃないか”──この金額からは、そんな声が聞こえてくるようだ。
※女性セブン2016年1月28日号