ユネスコ世界記憶遺産に南京大虐殺関連史料が登録された。来年(2017年)の「慰安婦関連史料」登録阻止のために何をすべきなのか。わが国が直面する課題を考える。
昨年、慰安婦関連史料のユネスコ登録が見送られた直後の2015年10月12日、中国外交部の華春瑩・副報道局長は「慰安婦問題は中国以外にも被害国があり、ユネスコ側から関係国との共同申請を奨励された」と発表した。ただし、中国側は具体的な内容を明らかにしておらず、時事通信の報道によればユネスコ側も「そうした事実は把握していない」としているため真偽は不明だ。
だが、来年の再登録を目指す中国が、関係諸国を巻き込み着々と準備を進めていることは間違いない。明星大学の高橋史朗教授によれば、「中国は韓国と台湾のほか、オランダ、フィリピン、北朝鮮と『国際連帯推進委員会』を結成して共同で2017年の再登録を目指している」という。
これら関係国の中で気になる動きを見せているのが台湾だ。中国への傾斜を強める台湾の馬英九総統は、2023年に台湾市内でオープン予定の軍事博物館内に慰安婦関連の展示区画を設置する方針を表明。日本の台湾統治に対する抵抗運動を「台湾の抗日」と位置付け、「日本による迫害の史実を詳らかにする」意向を示した。馬総統は安倍首相の戦後70年談話についても「慰安婦に対する明確な謝罪がなく遺憾」と不快感を露わにしており、対日史観で中韓と歩調を合わせることが考えられる。
その他の関係国については今のところ目立った動きはないものの、中国が「被害国」として名指ししたオランダは欧米諸国の中でもとりわけ慰安婦問題に関心の高い国だ。
2014年10月に日本を国賓訪問したアレクサンダー国王は、天皇・皇后主催の宮中晩さん会で「オランダの国民や兵士が体験したことを忘れることができない。戦争の傷跡は今も多くの人々の人生に影を落とし、犠牲者の悲しみは続いている」と旧日本軍の行為に言及した。オランダが慰安婦史料のユネスコ登録に名を連ねれば、欧米諸国に多大なインパクトを与えることになる。
※SAPIO2016年2月号