シニア世代の趣味として楽器演奏が注目されているが、この人もその一人。総裁選の舞台にもなる自民党本部8階の大ホールで壇上のグランドピアノを弾くのは、細田派会長の細田博之・元官房長官(71)だ。ベートーベンの『月光ソナタ』、ショパンの『雨だれ』、リチャード・クレイダーマンの『ノスタルジー』を滑らかに演奏してくれた。
「自分の弾ける曲だけを何回も弾いて楽しむ。ピアニストになろうというわけではないんだから、自分が楽しむことが長く続けるための一番の秘訣ではないですかね」
細田氏は小学生の頃ピアノを習っていたが、3年ほどで辞めてしまい、再開したのは39歳のときだった。
最初の頃は『トロイメライ』、『エリーゼのために』、といった曲を何百回も弾き、独学で練習した。練習曲は飽きるし長続きしないので弾かなかった。
「選挙では多くの人に会うし、気も遣います。知らず知らずストレスも溜まっていたんでしょうね。それがピアノに向かって1~2時間集中するととてもいい気分転換になりました。リラックスして疲れも取れる」
再開してからすでに30年近いキャリアになる。
「10年ほど前、ピアニストの中村紘子さんの会で演奏させていただく機会があって、誉めていただきまして。もちろん素人の演奏ではあるけれども、誉められると嬉しいし、とても励みになる。
選挙区でもご婦人と話したとき、『先生、ピアノをお弾きになるんですか。意外ですね』と驚かれる。これもちょっとうれしい。そうすると続くんです」
定期的な演奏会などは開いていないものの、誕生日に番記者たちの前で演奏を披露して喜ばれたことも。
再開以来、一度も先生についていない細田氏だが、実は、上手く弾くための「秘密の楽譜」ファイルを持っている。1曲の楽譜のうち、ピアノの黒い鍵盤を弾く音符に赤いマークをつけて弾きやすくしたものだ。
「♭(フラット)などが多い曲でも自分が弾きやすいように楽譜を工夫したわけです。ピアノの先生が見たら、『楽譜だけを見て弾けるようになりなさい』と怒られるかも知れないけど(笑い)」
細田氏のファイルにはいま、得意なレパートリー15曲ほどの秘密の楽譜がはいっている。
撮影■山崎力夫
※週刊ポスト2016年1月29日号