国家による言論統制が行き着くところまで行くと、国民は誰も“官製ニュース”を信じなくなり、ネットで広がるデマ情報を「真実」と思い込んでパニックを起こす。日本は中国からよくこのことを学んだ方がいい。
1月4日午後2時30分、中国の江西省九江市で大地震が発生した。〈中国地震台網(注・中国地震局の直営サイト)の自動測定によると、震源の深さは10キロ、マグニチュード6.9〉というニュースが国営中央テレビ、共産党機関紙「人民日報」系の環球時報など全国120ものニュースサイトに流れ、ネットの掲示板には、発生直後から、「みんなの無事を祈る」「学校の南4号館の建物は倒壊していないかな」「母さん、オレ家に帰りたい」などの心配する書き込みが相次ぎ、パニックが広がった。
ところが、肝心の九江市はピクリとも揺れていない。第一報を報じた上海のニュースサイト「澎湃新聞」が流した誤情報を、国営の有力メディアまでもが信じ込んで拡散しただけだったのだ。同サイトは13分後に訂正を行ない、中国地震局も「事実ではない」と否定したが、いったん広がったデマはなかなか消えず、九江市の市民には、遠くにいる家族や知人から安否を確認する電話が殺到したという。
ネットデマによる国民の不安心理の高まりは、現在の中国の大きな病巣となっている。
◆中国人の半分はデマを信じる
昨年夏に天津市の危険物倉庫で起きた大爆発事故の際には、ネットに「1300人以上が死亡」(当局発表は死者173人)という情報が流れ、「700トンのシアン化ナトリウムが漏れて全中国人が死ぬ」「会社の責任者は副市長の息子だから隠蔽されている」などと書き込まれて多くの国民がそれを信じた。なかには「北京で有毒ガスが撒かれた」といったデマもあった。
また、上海株式市場の急落直後には、「株価暴落で男が北京で飛び降り自殺」といった自殺情報がネット上を駆け回った。
中国の公安当局はいずれもデマ情報だとしてネットで拡散した197人を処罰し、165のサイトを閉鎖するなど“もみ消し”に躍起だ。今回の大地震発生のデマについても捜査を行なっている。
しかし、中国には国民がネット情報に頼らざるを得ない事情がある。
中国13億人のうちネットユーザーは半数近い6億人に達しているが、中国の検索サイトは「天安門事件」を調べようとしても一時的にネットに接続できなくなるなど検閲が厳しい。そのためユーザーたちは様々な独自の情報ネットワークを組み、その中で真偽確認ができないまま“口コミ”で情報が広がっていくのだ。
●取材協力/西谷格(ジャーナリスト)
※週刊ポスト2016年1月29日号