いま、シニア世代の趣味のひとつとして楽器演奏が注目を集めているが、アンチエイジング研究の権威である白澤抗加齢医学研究所所長・医学博士の白澤卓二氏(57)がフルートを始めたのは50歳の時。練習場所は病院の当直室だった。
「成田の老人病院に通い始める時に『空いている時間はフルートの練習をさせてほしい』という条件を出して(笑い)。そこでは、多い日は10時間くらいフルートを吹いていました」
ある時、一番離れた病棟の患者に「先生、今日はフルート吹かないんですか」と聞かれ、全部の病棟に聞こえていたことに気づく。それが医師としての転機になったという。
「それからは高齢者に馴染みのある童謡などを吹くようになりました。亡くなった方のカルテを見ると、そうした曲を聴きながらのほうが安らかに逝かれている。それから、病院全体の終末医療が変わりました。
患者さんを見送るときに、病室に癒されるような音楽をかけることで、点滴の量も減った。音楽が終末医療に与える力をフルートによって知ることができました」
フルートを始めてから、音楽仲間もたくさんできた。
野外オペラを披露するために仲間たちと地方で合宿も行なう白澤氏だが、そこで地元の人と恋に落ちたというロマンチックな体験をした仲間もいたという。
「楽器の演奏はアンチエイジング効果も抜群です。ピアノは脳のアンチエイジングになりますが、フルートは肺機能の老化防止にも役立ちます。最近、ヴァイオリンも習い始めましたが、ヴァイオリンはギターのように音階が区切られていないため、空間記憶の活性化につながるようです。いろんな楽器をやることで、バランスよくアンチエイジングできています」
だが、新しい楽器を始めることに敷居の高さを感じてしまう人もいるだろう。白澤氏はアドバイスする。
「大人になってから楽器を始める場合、『この曲が弾きたい』という曲を1曲作って始めることが大事です。私もピアノを始めた時は、『バッハが弾きたい』『ショパンが弾きたい』と先生にわがままを言い、その曲ばかりを練習しました。そういう目標があれば、練習が楽しくなります。何歳からでも新しい楽器にチャレンジしてほしいですね」
撮影■横田紋子
※週刊ポスト2016年1月29日号