ユネスコ世界記憶遺産に南京大虐殺関連史料が登録された。来年(2017年)の「慰安婦関連史料」登録阻止のために何をすべきなのか。わが国が直面する課題を考える。
ユネスコ世界記憶遺産は後世に伝える価値がある文献・美術品・映像などを登録、保護し、公開する目的で1997年に登録制度がスタートした。登録申請は、個人・団体を問わず基本的に誰でも行うことができる。2年に1度開催されるユネスコの審議に付されるのは原則1国2件までで、各国の国内委員会が選定する。ただし、2か国以上の個人・団体による申請は直接、ユネスコへの申請が可能だ。
これまでの登録総数は全世界で301件。日本からは筑豊炭鉱の記録画やシベリア抑留史料などが登録されている。
登録の審議は、選挙で選ばれた14名の各国代表から成るユネスコ記憶遺産国際諮問委員会(IAC)が行い、委員の2分の1以上の賛成で登録の可否が決定する。最終的な判断はユネスコ事務局長に委ねられるため、「南京大虐殺関連史料」の登録に際しては、親中派と言われる「イリナ・ボコバ事務局長の意向が働いたのでは」との見方もあった。
これについてユネスコ前事務局長の松浦晃一郎氏に聞いた。
「登録の可否を決めるのはあくまで委員会で、事務局長が独断で登録を推進することはできません。ただし、登録のプロセスに問題があるのは事実です。今回のように二国間で意見が異なる場合、委員会は登録申請の当事国だけでなく、相手国の反論を相互に検討しながら議論すべき。申請者と関係国による事前協議を制度化することも必要です」
南京大虐殺関連史料の登録を受け、菅義偉・内閣官房長官は「ユネスコへの分担金・拠出金停止」の可能性を示唆したが、この件に詳しい明星大学・高橋史朗教授は、「拠出金見直しは日本政府と国民の意思を伝える上で一定の効果はあると思うが、見直しにより日本がさらに蚊帳の外に置かれる可能性がある」と懸念する。
※SAPIO2016年2月号