山の頂でしか食べられない幻の「鍋焼きうどん」がある──。そんな噂を耳にした取材班は現地へ向かった。山道にくじけそうになりながら辿り着いた先には、至福の瞬間が待っていた。
鍋の蓋を開けると、グツグツと音を立て、白い湯気が立ち上る。ふわっと香る甘い匂いがなんとも食欲をそそる──。年の瀬の12月27日、取材班は絶品「鍋焼きうどん」に出会った。しかし、そこまでの道のりは決して容易なものではなかった。
都心から、車で約1時間。神奈川県・秦野の「鍋割山」の標高は1273m。同行した山岳ガイドの根本秀嗣さんによると、「入門編のまろやかな山」だというが、根本氏はヒマラヤ登頂の経験もあるプロ。しかし、初心者にはきつい。よろよろと山道を登る姿に、すれ違う登山客が、
「さっきは30分待ちだったけど、遅い時間帯は行列もなくなっているからきっとすぐに食べられるよ。あと少し、がんばって!」
と、代わる代わる声をかけて励ましてくれる。この先に、ご褒美が待っている──。その一念で、約3時間半かけてようやく山頂に到着した。
◆つゆの甘さが染み渡る
疲労と寒さで足はガクガクだが、一目散にお目当ての「鍋割山荘」へ。
「いらっしゃい! 鍋焼きうどん、4つね!」
と、調理場から店主の草野延孝さんが明るく迎えてくれた。はやる気持ちを抑えながら席で待つと、
「はい、できましたよ~」
いよいよご対面だ。ワクワクしながら蓋をとるとふわっと湯気がたち、つゆの甘い香りが立ち上る。煮込まれたつゆはグツグツと音をたて、麺を覆い尽くすほどたっぷりと具材が乗っている。真ん中にはぷっくりと膨らんだ半熟の卵、その横にはホクホクのカボチャの天ぷら。きのこにお揚げにほうれん草に……と、具材をかきわけながら宝探しのような気持ちになる。
早速、熱々のつゆをひと口。冬山で冷え切った身体にその甘さがじわっと染み渡り、疲れがほぐれた。あぁ、旨い。
◆「具材は背負って運ぶ」
居合わせた男性客がいう。
「やっぱり何度食べてもいいなぁ。熱々のうどんは、山小屋ではなによりのごちそうだよね」
その男性客が店主の草野さんにこう聞いた。
「ご主人、まだ『ボッカ』しているの?」
「そりゃあそうだよ。そうじゃなきゃ、鍋焼きうどんは作れないよ(笑い)」