長年、生活困窮者の支援に携わるNPO法人ほっとプラスの代表理事、藤田孝典氏が昨年上梓した『下流老人』(朝日新書)は大きな話題となった。しかし高齢者の貧困対策はまったく進んでいないという。
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日本人に痛税感が強いのは、どんなに税金や保険料を払っても「国は何もしてくれない」という思いがあるからです。もはやこの国の社会保障は崩壊しています。年金も医療も高度成長を前提とした古い制度のままで、社会保障費は膨れ上がっていると言われますが、必要な人には何も届いていません。
本来やるべき社会保障の抜本改革をせず、教育、住宅、介護、保育、これらすべてを市場原理に任せた結果、全部が「商品」になってしまいました。金がないと暮らせない仕組みになっても、政府は放置し続けたのです。
拙著『下流老人』のタイトルが話題になりましたし、高齢者に限らず子供の貧困や母子家庭の貧困がクローズアップされています。2016年度予算では政府も貧困対策を盛り込むことでしょう。しかし予算をどうやってつけて、それをどのように恒久的な貧困対策に結びつけるかについてはまだまだ議論が深まっておらず“そのきざしがある”程度です。
政府が高齢者の貧困対策をどう進めて行くのかは、当事者である高齢者が今の政治をどう判断するかです。それを意識してか、安倍政権は低所得の年金受給者に対して3万円を配ることを発表しています。でも、貧困対策ではなく、一過性の“選挙対策”で終わってしまって社会が変わらなければ、問題は解決しません。このままなら僕らの世代の老後は社会保障の給付がなければ暮らせないのは明らかですから、全有権者の問題でもあります。
具体的に社会を変えるのは政治ですが、どういう社会を選ぶかというのは国民次第。「生きづらい」と感じたら声をあげていくしかないのです。
【PROFILE】1982年生まれ。NPO法人ほっとプラス代表理事。聖学院大学人間福祉学部客員准教授。反貧困ネットワーク埼玉代表。厚生労働省社会保障審議会特別部会委員。ソーシャルワーカーとして現場で活動する傍ら、生活困窮者支援の在り方を問う。昨年発売された『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』(朝日新書)がベストセラーに。
※SAPIO2016年2月号