長年、生活困窮者の支援に携わるNPO法人ほっとプラスの代表理事、藤田孝典氏が昨年上梓した『下流老人』(朝日新書)は大きな話題となった。藤田氏は、今後は日本人の9割が下流老人予備軍になり、次々に負の連鎖が起きると警鐘を鳴らす。
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「下流老人」という言葉は、生活保護レベルで暮らす高齢者を、あえて「下流」と呼ぶことで、社会に警鐘を鳴らすつもりで作りました。もし私たちがこれまでと変わらず、確実に相当数存在する下流老人から目を逸らし続ければ、日本人の9割が下流老人予備軍となります。
貧困者対策は待ったなしです。収入が著しく少ない、十分な貯蓄がない、頼れる人間がいないという「3ない」が下流老人の共通項。そういった人たちを放置してしまうと、今後は次のような負の連鎖が起きるでしょう。
【1】親世代と子供が共倒れ
身内が下流老人になれば、子供世代に相当な負担を強いることになり共倒れになる。
【2】価値観の崩壊
高齢者のために若者世代が共倒れするようになれば、社会的役割を十分に果たしてきたお年寄りが「お荷物」となり、さらには障害者や生活能力が低い弱者に対する差別的意識が助長され、彼らの自立を阻害する要因になる。
【3】若者世代の消費の低迷
高齢者が「下流」になっているのを見て、若者が老後のために「貯蓄」に走る。
【4】少子化の加速
老後の不安は、家族を持つことを「リスク」と考える若者を生み、少子化が加速する。
ターニングポイントは団塊世代が75歳を迎えるまでの約10年間です。彼らは貯蓄を切り崩しながら生活するわけですが、人口が多いその世代が一定の割合で下流老人になれば、その数ははかり知れません。さらに怖いのが団塊ジュニア世代で、彼らの4割が非正規雇用ですから、その世代は4割が下流老人予備軍です。
【PROFILE】1982年生まれ。NPO法人ほっとプラス代表理事。聖学院大学人間福祉学部客員准教授。反貧困ネットワーク埼玉代表。厚生労働省社会保障審議会特別部会委員。ソーシャルワーカーとして現場で活動する傍ら、生活困窮者支援の在り方を問う。昨年発売された『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』(朝日新書)がベストセラーに。
※SAPIO2016年2月号