「消費拡大」を煽って経済再生を図るアベノミクスに反旗を翻す「マネーの滞留現象」が進行中だ。超低金利時代にありながら、銀行預金が膨張し続けている。
2015年11月末時点の銀行の預金残高は過去最高の約677兆円(日銀統計)に達し、この20年で約230兆円増加した。その増加分の9割を占めるのが個人預金だ。
総務省の最新の全国消費実態調査(2014年)によると、個人預金の5割超を占める60歳以上の高齢者世帯の平均預金額は1351万円。前回調査時(2009年)から約7万円増えている。対照的に60歳未満の現役世代は10万円の減少となった。
同調査では株などの有価証券も含めた貯蓄額の平均額も算出している。
・60~64歳:2082万円
・65~69歳:2158万円
・70~74歳:2054万円
・75~79歳:1884万円
(いずれも世帯主の年齢)
シニア世代がどれぐらい貯蓄しているかを表わした「貯蓄分布図」を見ると、平均額からはわからない興味深い数字が浮かび上がる。
退職金や年金の受給が始まる65~69歳のデータを見ると、最も多いのは貯蓄額「4000万円以上」(1664世帯)の層。「2000万~3000万円」(1479世帯)がそれに続くが、3位には一転、「150万円未満」(1129世帯)がランクインしている。
前回調査と比べると、2000万円以上の貯蓄を持つ65歳以上の世帯が22%増えている一方で、150万円未満の世帯も27%も増加しており、「金持ち老後」と「貧乏老後」の二極化が鮮明になっているのだ。同志社大学大学院ビジネス研究科教授の浜矩子氏が解説する。
「ひと昔前は数千万円の預金があれば、金利収入だけである程度の生活コストを賄えた。しかし超低金利の現在は預金に手を出せば元本を食い潰すことになるため、資産を増やす手立てのない高齢者は“貯蓄を取り崩したら破滅する”と考え、預貯金を守ることを最優先しています。
しかし、物価上昇や消費増税の影響で、なけなしの預金を取り崩す事態に追い込まれている高齢者も大勢いる。これが二極化の理由です」
※週刊ポスト2016年2月12日号