大関・琴奨菊が初優勝。10年ぶりの「日本出身力士」の勝利で初場所は空前の盛り上がりを見せた。その祝賀ムードに水を差すようで悪いが、残念ながらこの喜びは長くは続きそうにない。たとえば、今回の優勝も完全勝利ではなかった。ファンの誰もが首をかしげる一番があったことを覚えているだろう。
初場所10日目までともに全勝を守った白鵬と琴奨菊。11日目の結びの一番で2人は直接対決した。
それまでの白鵬は盤石だった。8日目には好調の関脇・嘉風を気合い溢れる相撲で一蹴、9日目は関脇・栃煌山に、変化したうえで上手出し投げで勝利した。
しかし琴奨菊戦では、これまでの姿が別人のように、ふわっとした立ち合いから圧倒され、最後は自分から力なく土俵を割るような素振りを見せた。通算成績46勝4敗とカモにしてきた相手。特に奇襲を打たれたわけでもなく、九重親方の言葉を借りると「がぶり寄りだけ」なのに。
「その後もおかしかった。12日目の豪栄道、13日目の鶴竜は寄せ付けずに勝ったが、13日目に琴奨菊が豊ノ島戦で負けると、翌日白鵬は稀勢の里に立ち遅れ、一気に押し出されて2敗目。続く千秋楽も、日馬富士の上手投げであっさり土俵にった。勝負強さ、安定感が売りの白鵬らしからぬ相撲だった」(古参親方)
この状況にファンの間では「白鵬限界説」まで浮上。しかし、相撲ジャーナリストはこれを否定する。
「確かに左ひざと右ひじが10日目あたりから痛かったようですが、師匠の宮城野親方(元前頭・竹葉山)も“心配ない。ジョークすら飛ばして余裕がある”といっていたくらいですし、問題ないはず。原因は別のところにあると思います」
相撲ジャーナリストが続ける。
「今場所の白鵬は、色んな意味でファンの思いに応えようとしていたとしか思えないんです。転機になったのは、変化した9日目の栃煌山戦でしょう」
この一番で白鵬は、立ち合いで右手を伸ばして相手に“目隠し”をし、直後に左へ変化。栃煌山はたまらず土俵下へ落ちた。前場所には「猫だまし」をして勝ち問題になっただけに、ブーイングが起きた。
白鵬は取組後、「あれは変化じゃない。相撲は頭を使わなきゃ」と語った。しかし、記者を前に「申し訳ありません」と謝罪。前出のジャーナリストが語る。
「意外な謝罪でした。近年の日本人ファンからの風当たりの強さが、想像以上に堪えているということでしょう。万歳事件(※注)しかり、今回のブーイングしかり。
【※注:2013年九州場所14日目、白鵬が稀勢の里に敗れた後、観客から万歳コールが起きた事件】
続く10日目には、それまで勝ちっぱなしの琴奨菊に対してマスコミが“10年ぶりの日本人Vへ”と騒ぎ立て、観客の声援もさらに大きくなっていった。その状況に何か思うところがあったのではないでしょうか。琴奨菊に負けた白鵬を見たある関係者が“空気を読んだな”と冗談をいっていたのが印象的でした」