なんでも、錦鯉、秋田犬、レース鳩、盆栽を“日本4大とっつぁん趣味”と呼ぶそうな。なかでも「愛鯉家(あいりか)に女性は皆無」というほど、錦鯉の世界は男まみれだ。月刊『鱗光』の編集に携わる田代聖子さん(38才)をしても「正直、その魅力がよくわからない」と言う──。
そもそも錦鯉は、新潟の山間部・山古志地方で雪に閉ざされた冬場、棚田で食用の真鯉を飼っていたのが、事の始まり。そのうち何かの拍子で、赤や白の色の鯉ができた。ならば、これとあれをかけ合わせたらどうかと人工交配を繰り返して生まれたのが日本特有の観賞魚・錦鯉で、今では“国魚”にも指定されている。
錦鯉が一般に知られたのは、新潟出身の田中角栄元総理が、東京・目白の自邸で、池の錦鯉にエサをあげているシーンがテレビで流されてからだ。
「あの姿にあこがれた男たちが日本中にあふれたといいます。錦鯉は“高尚な男たちの趣味”となり、美しい鯉にはとんでもない高値がつくようになりました」(田代さん)
バブル崩壊までは、1匹2000万円、いや、3000万円の値がついた、という景気のいい噂が飛びかった。
そんな錦鯉の世界が大きく様変わりしたのは10年ほど前。
「国際化しましたね。新潟県の小千谷市や長岡市に点在する養鯉場に行くと、買付けに来た外国人に会わない日はないくらいです。今は、錦鯉業界のほぼ8割の売り上げは外国人で占められています。中国、インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナムなどの東南アジア。イギリス、ドイツ、ベルギー、オランダなどの欧州。そしてアメリカ。日本的な棚田の中で、外国人が『ベニ・イズ・グッド』などと、話しているのを聞くと、なんとも不思議な気持ちになります」(田代さん)
錦鯉の赤は「紅」、黒は「墨」という。そして紅、墨、白の色の混じり方によって、「大正三色」「昭和三色」などの型に分けられる。「サムライ」「カラオケ」が諸外国でそのまま使われるように「ベニ」「スミ」「ショウワ」などの用語は国際的に通用する。
気になる値段だが、1匹500円から数百万円までピンキリだ。値段はあってないようなものだが、高値がつく基準はある。秋から春まで開かれる大小の品評会での評価だ。
(取材・文/野原広子)
【錦鯉の専門誌『鱗光』】
創刊:1962年
発行:毎月15日頃発行
部数:3000部
読者層:愛鯉家、養鯉場、餌などの業者
定価:1部1296円
購入方法:大手書店か、発売元・新日本教育図書に直接注文。
※女性セブン2016年2月18日号