総務省の最新の全国消費実態調査(2014年)によると、個人預金の5割超を占める60歳以上の高齢者世帯の平均預金額は1351万円。前回調査時(2009年)から約7万円増えている。対照的に60歳未満の現役世代は10万円の減少となった。しかし、長生きをした場合、このお金で果たして生きていけるのだろうか──60歳以上のシニア世代からは、貯金に対する生々しい声が聞こえてくる。
中部地方在住の田宮明さん(仮名・67歳)は一部上場企業を60歳で定年退職後、再雇用契約によって5年間、関連会社で働いた。
「退職金は2800万円でしたが、そのうち1000万円は住宅ローンの返済に充てました。再雇用時の月の給与は手取りで20万円。現役時代の4分の1程度です。女房にもパートに出てもらい、年金の支給開始年齢までの5年間、虎の子の預金1800万円に手を付けることなく過ごせた。
いまは夫婦合わせて月約24万円の年金暮らしで預金にはノータッチ。贅沢はできませんが、死ぬまでは何とか生活に困らないと思う」
首都圏に住む森脇聡志さん(仮名・69歳)は、都内の中小企業を60歳で退職。30代後半で転職した職場だったため、退職金は400万円程度で、預貯金は900万円に満たないという。
「65歳までは清掃関係のアルバイトで、月に12万円稼いでいました。女房も近所のスーパーで月8万円のパートに出ていた。2人で月17万円の年金生活に移ってからは365日自炊です。旅行に出掛けたこともない。親の代からの持ち家に夫婦2人だけで住んでいるので、食費や光熱費を切り詰めれば年金だけで生活できます。将来に不安がないわけではありませんが、妻とは“大病さえしなければやっていける”と話しています」
貯金額は違っても、2人は「入院などで大きな出費がない限り、貯金には手を付けない」と考えている点は同じである。まさしく「老後貯金族」である。
※週刊ポスト2016年2月12日号