デフレ不況からの脱却を掲げるアベノミクスの中で、「消費や投資をしない者が不景気を招いている」という〈貯蓄悪玉論〉が広がっている。
だが、そうした空気に断固として抗う「老後貯金族」がいる。総務省の最新の全国消費実態調査(2014年)によると、個人預金の5割超を占める60歳以上の高齢者世帯の平均預金額は1351万円。前回調査時(2009年)から約7万円増えている。シニア層が「貯蓄」に邁進するのは、死ぬまでにいくら生活費が必要なのか見通せないからだ。
総務省の統計(2014年)によれば、60歳以上の高齢者を含む2人以上の無職世帯における平均支出額は月額約24万6000円(税金、社会保障費を除く)。一方、年金などの平均収入月額は約17万円だ。
単純計算で一か月に7万6000円が不足する計算となり、不足分を預金を取り崩しながら賄うとすれば、20年間生活するのに約1800万円、30年間なら約2700万円が必要になる。だが、それだけでは足りない現実がある。ファイナンシャルプランナーの山口京子氏が話す。
「総務省のデータを知った定年間際の方々から“退職時に2000万円の貯金があれば足りますか?”と聞かれることが多いのですが、私は“最低でも3000万円は用意しておきたい”と答えています。
65~85歳までの20年間を慎ましく暮らし、何事もなければ足りるかもしれませんが、それ以上生きたらその皮算用は破綻します。『長生きリスク』を考慮しなければ、後悔することになります」
日本人の平均寿命は5年ごとに1歳ずつ延びており、現在は男性80.5歳、女性86.8歳。今や100歳以上生きる人も珍しくない。2015年9月時点の日本の100歳以上人口は6万1568人で、前年より2748人増えている。
長生きするほどに生活費はかさみ、加齢で衰える体の“ケア費用”も必要になってくる。体の負担軽減や介護に備えた自宅のリフォーム費用は高齢者の多くがその時になって捻出するという。
公益財団法人・生命保険文化センターが行なった試算では、リフォームに要する初期費用の平均は80万円。夫婦どちらかの介護が伴えば、月々の介護費用は7.9万円かかるという。そして最大の“追加出費”となるのが医療費だ。
「がんや心筋梗塞など、歳を重ねるごとに発症リスクが増す大病の治療費を準備しておくべきです。保険外の先進医療などを施せば1回の治療費で100万円を超えるケースもあります。こうした長生きリスクに対応する費用だけで、1000万円は必要になるとアドバイスしているのです」(同前)
※週刊ポスト2016年2月12日号