元プロ野球選手の清原和博氏が覚醒剤所持容疑で今月2日に現行犯逮捕された。清原氏と覚醒剤の疑惑は週刊文春が2014年に報じて以来、さまざまな噂が飛び交っていた。しかし本人が明確に否定し、テレビ露出度も増えてきただけに、突然の逮捕に「やっぱり」「残念」という思いがネットで交差した。フリー・ライターの神田憲行氏が想いを綴る。
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清原和博氏が現役選手を引退して解説者になった1年目か2年目だったろうか、夏の高校野球観戦記を書くという話が、私が仕事をしている週刊誌編集部にきた。覚醒剤の噂などみじんも出てないころで、
「清原は試合開始で甲子園でなるあのサイレンをすごく楽しみにしているんですよ。そこが自分の原点だったので」
という関係者の売り込みだったと聞く。
とりあえず甲子園球場で編集者とライターの代表で私が清原氏に挨拶することになった。ロープを張った関係者専用の観戦席に清原氏は飛び込むように入ってくると、誰ともなにも話さず、椅子に座り込んで携帯電話のゲームをやり始めた。グラウンドに全く目もくれず、大きな身体を丸めてゲームをやっている姿と、それを黙って取り囲んでいる関係者の姿が異様でよく覚えている。
清原氏が楽しみというサイレンが鳴っても、まだゲームを続けていた。私は他の取材もあり、アホらしくなって「俺、帰るわ」と編集者に言い残して挨拶せずに自分の取材席に戻った。もうあの人は野球に興味ないんじゃないか、と思った。
私が憤りをもったのは、ある野球解説者の姿が頭にあったからだった。
江夏豊さんである。99年の夏の甲子園に観戦記を書くために来た江夏さんは、記者席で「商売道具持ってきたで」と鞄からスコアブックを取りだした。それからベテランの野球記者が入れ替わり立ち替わり江夏さんのところに挨拶にきた。江夏さんが出ている雑誌を持ってきて、「サインお願いします」という記者もいた。いや、それどころか、スポーツ店で買ってきたばかりのグラブを差し出してサインをねだった記者もいた。
記者が取材相手にサインをねだるのはかなり恥ずかしい行為である。しかも他社が呼んだゲストだ。その恥ずかしさを忍ばせるくらい、江夏さんは圧倒的な存在感があった。
試合が始まって、江夏さんと担当編集者の席をチラチラ見ていると、手違いで飲み物が運ばれていないのがわかった。慌てて取材席まで駆け上がると、江夏さんは「イチ、ニィ、サン、シ……」とイニングの投球数を声を出しながらあの黄金の左の指で確認しているところだった。
「江夏さん、お飲み物をお持ちしましょう。なにがいいですか」
「なにがあんの」
「なんでもご用意します」
「お茶か水」
そしてまた「イチ、ニィ、サン……」と数え始めた。