素人にはなかなか理解できないのが「裁判」。笑福亭仁鶴司会の『バラエティー生活笑百科』(NHK)や、『行列のできる法律相談所』(日本テレビ系)といったテレビ番組が成立し、人気を博すのも、「素人は法律が分からないから」だが、プロはどんな裁判に注目しているのだろう? 弁護士の竹下正己氏が回答する。
【相談】
毎号、竹下正己弁護士の「法律相談」を楽しみに拝読しています。そこで竹下弁護士にお聞きしたいのですが、昨年の2015年に起きた裁判事例でいちばん関心をひかれたのは、どのような事件や諍いだったのでしょうか。また、これから私たちが気をつけなければいけない裁判事例も教えてください。
【回答】
私の関心より、読者のためになる事件を紹介します。年末、夫婦同姓制度と待婚期間の合憲性が問われ、最高裁大法廷は前者を合憲、後者は離婚後100日を超える再婚禁止期間は違憲との判断を同じ日に示しました。前者に関し、最高裁はなお国会で議論するように求めています。後者は女性の6か月の再婚禁止期間が男女平等違反なのか問題になりました。
民法では、婚姻後200日後に生まれた子と離婚後300日以内に生まれた子を夫の子と推定しています。子の父親が前夫か再婚した夫かを区別するためで、再婚禁止期間も同様の趣旨です。簡単な算数で離婚後100日で足りるのがわかります。
子供が蹴ったサッカーボールが校庭を飛び出し、バイクを転倒させ、親の責任が問われた事件で、最高裁は通常では人身に危害が及ぶとはいえない行為の場合、危険が具体的に予見可能でない限りは監督義務はないと判断しました。親族間の監督責任では、逆に認知症の高齢者が起こした鉄道事故の責任を家族が負うかという事件があり、最高裁の判断が待たれます。
職場で女性に自分の性器を自慢したり、歳を尋ね、結婚しないと親が心配するとか、お局さんになって怖がられているのではないか、などと地元の方言を使い、野卑に発言した男をセクハラ行為であると会社が決定した懲戒処分を最高裁は正当としました。
キャリーバッグに躓き転倒した事故で、キャリーバッグが歩行者の歩行を妨げたり、躓いて転倒させることがないよう、注意すべき義務を負うとして賠償を命じました。気をつけてください。
本誌では、バリウムによる胃がん検診を警告していますが、排泄できなかったバリウムが腹中で固形化し、大腸穿孔を起こして死亡した医療事故の判決もありました。これも気をつけましょう。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2016年2月19日号