かつて日本のサラリーマンは、入社した企業の社風に染まることが奨励された時代があった。不況やグローバル化という経済環境の変化で個人が重視されるようになると、社風について語られることは減った。とはいえ、社風は依然としてあり、それが会社の“活力”と連動していることも事実。日本を代表するビール会社の社風を探った。
「理詰めの総合力で戦うイングランドラグビーのキリン、組織よりも個々の能力を生かすフレンチラグビーのサントリー、強みを前面に押し出して一点突破するウェールズラグビーのアサヒ」とラグビー代表になぞらえてビール業界を評するのは、経済ジャーナリストの永井隆氏だ。
1970~80年代にかけ、6割超のシェアを誇ったキリン。「財閥系(三菱グループ)でお堅い。ハンコが重視され小回りが利かない」と言われてきた。
「近年は他社の攻勢を受けて負ける場面が増えたせいか、新しい試みとして小規模な醸造所で生産されるクラフトビールを事業化するなど、チャレンジできる雰囲気が出てきつつある。
営業や商品開発の現場にユニークな人材が増えたが、そういう人ほど、社内の出世構造にうまく乗れず偉くなれない。ビール業界の優等生であることに変わりはなく、サントリーの人事などスタッフ部門では『キリンがやっている』と提案すると、会議で通りやすいほどだという」(永井氏)
そのサントリーはキリンとは対照的だ。
「キリンがクラスの学級委員長だとしたら、サントリーはやんちゃボーイ&やんちゃガールの集団。“何もやらないことは罪”という気風が厳然と残っており、積極的に仕事をしていけば出世の道が見えてくる」(永井氏)
ただし、これも時代の流れか、かつての“やんちゃ”が少なくなる傾向にある。
「サントリーのある幹部が佐治信忠会長(HD)に文書で私見を伝える機会があり、『サントリーは社員が一流大出身者ばかりになってバカをやる人間がいなくなった。この会社にバカがいなくなったら終わりだ』と送ったら、『その通りだ』と書かれて返ってきたという。こうサラッと言えるのだから、“やんちゃ”を重んじる体質自体はまだ濃厚に残っているのだろう」(永井氏)