〈“ネコノミクス”経済効果は約2兆3000億円〉──2月3日の産経新聞に、昨今の猫ブームを象徴する見出しが躍った。昨年は飼育費や猫グッズなどの売り上げが大幅に伸びたという。
その一方で、安易に猫を飼うことに警鐘を鳴らす作文が注目を集めている。そのタイトルは『78円の命』。3年前、小学6年生だった愛知県豊橋市の谷山千華さん(現在15歳)が夏休みに書いた作文だった。
千華さんは近所の野良猫「キキ」が産んだ子猫がいなくなったことで、捨て猫が殺処分される現実を知った。環境省によれば、2014年度の全国の犬猫の殺処分数は10万1338匹に上る。猫は7万9745匹で、うち約6割が子猫だ。千華さんは、作文でこう綴っている。
〈10匹単位で小さな穴に押し込められ、二酸化炭素が送り込まれる。数分もがき、苦しみ、死んだ後はごみのようにすぐに焼かれてしまうのだ。動物の処分1匹につき78円。動物の命の価値がたった78円でしかないように思えて胸が張りさけそうになった〉
現在、この作文を元にした絵本やポスターを作成し、動物の命の尊さを訴えかけるプロジェクトが立ち上がっている。制作費はインターネットを通じて不特定多数に資金を募り、当初の目標額100万円をたったの4日でクリア。すでに150万円を超えている。発起人の1人であるライターの戸塚真琴氏が言う。
「千華さんの素直な想いが多くの人の心を動かしているのだと思います。殺処分ではなく、ボランティアと地域住民が協力し、避妊去勢手術をした後に、地域の合意を得たうえで育てていく“地域猫”という考え方も同時に広めていきたいです」
一方、プロジェクトの活動が注目されるにつれ、ネット上では〈猫が増え過ぎたら困る〉、〈たったの78円というなら、お前が稼いでみろ〉といった中傷の書き込みが見られ、千華さんも心を痛めているという。
心なき声は猫ばかりか少女の心も蝕む。小学生の作文から始まった試みを見守りたい。
※週刊ポスト2016年2月26日号