日本銀行がマイナス金利政策を導入したが、報道を見ていると、マイナス金利によって受け取れる預金金利が減り、銀行の経営が圧迫されてATMの手数料が値上げされるなど、家計にも「悪いことばかり」の印象を受ける。
だが、SMBC日興証券が2月8日に発表したマイナス金利の「実体経済への影響」の試算レポートは、まったく逆を示している。
まず家計への影響だが、マイナス金利によって利息収入は357億円減るものの、住宅ローンの金利負担は1805億円も減る。ローンの負担が減るのに応じて消費も増えるため、家計全体では2172億円のプラスだ。企業も借入金の金利負担が減るため、1279億円のプラスになる。
さらに、マイナス金利は「銀行の経営を圧迫する」と常識のようにいわれているが、レポートではこれも否定されている。たしかに貸出金利の低下で3830億円の大幅減益になるが、日銀への保有国債の売却益が8781億円見込めるため、他の減益要素を加えてもトータルで銀行は84億円のプラス。民間全体では3535億円ものプラスになる。
逆に日銀は「銀行にキャピタルゲインを与えるため」8081億円の損失となる。つまり「損をするのは日銀だけ」なのだ。それにはこんなカラクリがあると第一生命経済研究所・主席エコノミストの永濱利廣氏が解説する。
「長期金利、すなわち国債の利回りがマイナスになっているのに銀行が国債を買っているのは、それでも損をしないから。損をしないのは、後々高い値段で日銀が買ってくれるからです。
日銀は銀行から国債を買えないとマネタリーベースが増えないので、“売ってくれ”という立場。決して銀行のために買い取ってあげているわけではありません。しかも、マイナス金利の対象となっている当座預金は10~30兆円にすぎない。マイナス金利で家計や企業にプラスの恩恵が行き、実体経済が回復すれば銀行にとってはプラス材料になる」(永濱氏)
銀行への影響もプラスとなれば、当然、「ATM手数料の値上げ」も起こり得ないわけだ。