【書評】『おひとりさまの最期』/上野千鶴子/朝日新聞出版/1512円
【評者】井上理津子(ノンフィクションライター)
今、「おひとりさま」とキーワード検索すると590万件もヒットした。どこか寂しげな印象がつきまといがちだった「ひとり」を、プラスイメージに転じるこの言葉を流行させたのが著者だ。
2007年に出た『おひとりさまの老後』で、夫や子どもがいてもいなくても、女性は最後にひとりになる確率が高い。子どもからの「一緒に暮らさない?」という申し出は「悪魔のささやき」。老後のプランが乱されることが多いから、のらないほうがいいと社会学的見地から論じ、話題になったと記憶に新しい。
『おひとりさまの最期』は、そこから一歩進んで「おひとりさまは、その生きざまのように幸せに死んでいけるか」を研究データと医療や介護の現場への調査等により検証した本。
「在宅ひとり死(独居の在宅死)」は可能か。感動的なのが、悪性腫瘍で10ヶ月間闘病して逝った英文学者(享年57)のケースだ。彼女は「人持ち」だった。30人の仲間(著者もその一人)がMLで入院・退院時の介助、食事療法、代替療法などの案を出し合い、本人が選択。シフトを組んでサポートに通って支えたそうだ。
じゃあ「人持ち」でなかったら? 認知症歴7年の女性(86才)の自宅は、ヘルパーやケアマネ、美容師までもが出入りし、賑やかだ。地域の成年後見センターの人が成年後見人を引き受け、彼女の貯金を有効利用して「司令塔」になっていたのだ。
恵まれた条件の都市部だけでなく、地方の医師や介護士、看取り士らが奮闘する実例が盛りだくさん。やってできないことはないようだ。「大丈夫よ」のメッセージが小気味よく伝わってくる。
※女性セブン2016年3月3日号