「月曜日の夜9時になると街から女性たちが消える」――1991年、『東京ラブストーリー』はそんな社会現象を巻き起こし、「月9」という流行語を生み出した。しかし録画機器が普及し、インターネットで動画が見られる時代になり、その言葉は空虚になって久しい。
そんな中始まったフジテレビの月9ドラマ『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』は、ここ数年の月9とは、ひと味もふた味も違う。
そんな『いつ恋』の脚本を手がけるのは、月9ブームを生んだ『東京ラブストーリー』の坂元裕二氏。名せりふに定評のある彼にとって、10作目となる月9が『いつ恋』だ。「それだけに気合が入っている」というのは、テレビ・ドラマ解説者の木村隆志さん。
「キャラクターによるせりふの書き分けは、いつも以上の意気込みを感じます。音は恋心、晴太は東京の陰の部分、朝陽はエリートだけどこじらせた感じとか、“この人に、このせりふを言わせる”というスタイルができています」
本誌編集部でも、20~50代までの男女が『いつ恋』の話をしている。生きてきた時代も、価値観も違うのに。
「ちなみに録画派です。たとえオンタイムで見ても、その後、録画で見直します。必ず何度も聞きたくなるせりふがあるんですよね」(52才・会社員)
「胸がヒリヒリして見られないと思いながらも、じっとテレビに見入ってしまいます。音と練の恋はもちろんなんですけど、私は木穂子の生き方がリアルすぎてつらい。田舎から出てきて夢の広告会社で働いたものの、業務は雑務止まり。会社の冷遇にひたすら耐えて、それ以外ではキラキラ女子でいるって、私のこと?って…。泣けてきました」(28才・派遣)
ドラマウオッチャーで恋愛作家の島田佳奈さんは坂元さんが描いてきた「リアル」に注目している。
「昔のラブストーリーは、必要以上にキラキラしていたじゃないですか? みんな華やかでしたよね。やたらバーで飲んでいたけれど、それが憧れであり、リアルでもあった。
そういった意味で、『いつ恋』にもリアルがある。ただそれは、苦しいリアル。ヒロインの音が介護施設で働いていて、お金がなくていつも同じ黄色いコートを着ている。おしゃれなレストランにもバーにも行かず、基本は家飲み。低所得者層の若者を切り取っているのが、見ていて、苦しくなります。でも、だから、目が離せない」
そして木村さんは、今作にどっぷりハマッてしまうのは、普遍的な人間の内面が丁寧に描かれているからだという。
「せりふが素晴らしいのはもちろんなんですが、そのせりふに頼るだけじゃなく、例えば『アルプス一万尺』をふたりでやったり、こたつでたこ焼きを作りながら家族の話をしたり、なんということもない会話に、ふたりの思いがあふれているんです。『東京~』含め、坂元さんの作品が、決して流し見できない大きな理由だと思います」
※女性セブン2016年3月3日号