中国の外貨準備高は、2015年12月に過去最大となる前月比1079億ドル減を記録。今年1月には995億ドル減と、大幅な減少が続いている。市場では「人民元相場の急落を阻止するために、中国人民銀行が外貨準備を取り崩し、元を買い支えている」との見方がもっぱらだ。
こうした中国の為替介入に対し、純資産は約249億ドル(約2兆9100億円)ともいわれるアメリカの投資家で「イングランド銀行を倒した男」と呼ばれるジョージ・ソロス氏は1月22日に行なわれたダボス会議で、次のように発言した。
「中国バブル崩壊はもう起こったこと。(中略)中国経済の問題はデフレと過大な債務だ。中国経済の負債はおそらくGDP比300%か、対外債務を合わせれば350%にも上る深刻なもの。しかも中国は輸出主導から内需主導への経済改革を長く放置し過ぎた。ハードランディングは不可避である」
その上でソロス氏は「自分は“アジア通貨”を空売りしている」と高らかに宣言。この言葉は世界に大きな衝撃を与えた。
ソロス氏のいう“アジア通貨”が何を指しているかは明かされていない。だが、「人民元を指しているのでは」というのが投資関係者の共通認識だ。
事実、ソロス氏の発言にすぐに反応したのが中国の国営メディアだった。新華社は発言直後の1月23日に、「人民元を空売りし、中国大陸、香港資本市場を攻撃する国際ヘッジファンドに強く警告する」との英文記事を配信。翌日には中国語記事で、「悪意の人民元売りは高いコストを払う結果になる。法的にも厳しい結果を覚悟すべきだ」とソロス氏の行動に言及した。
この1月24日はちょうど習近平国家主席が中東訪問から帰国した日で、共産党の機関紙・人民日報は習近平の意を酌んだように「空売りは成功しない」「中国経済は絶対にハードランディングしない」と大々的に報じた。
領土問題以外で中国がここまで相次ぐ“口撃”を繰り出すのは異例だ。しかし、中国の国営メディアや党機関紙が火消しに必死になればなるほど「痛いところを突かれた中国政府の焦り」が浮き彫りになる。外為オンラインのシニアアナリスト・佐藤正和氏は、中国経済の現状をこう分析する。
「2008年のリーマン・ショック後、胡錦濤率いる中国政府は公共投資などに4兆元(約64兆円)をつぎ込むことで、いち早く立ち直ることができた。しかしその結果、不動産・株式バブルに陥った。過剰な設備投資によって供給能力は過剰になり、海外からの投資は激減。ソロス氏のいうようにすでに不動産と株式のバブルは崩壊しているといわれる」