不妊に悩む女性にとって福音ともいえるのが、今年2月上旬に報じられた「44才女性のA子さんが冷凍保存した卵子で妊娠・出産に成功」というニュースだ。不妊治療を行う『はらメディカルクリニック』は、2010年7月から2年間、健康な独身女性の卵子凍結を開始した。2年間で167件の問い合わせがあり、うち36~42才の32名が卵子を凍結した。
「当初は30代半ばでパートナーのいる女性が、“仕事が忙しいので2~3年は妊娠を避けたい”と凍結を希望すると想定していました。明確な人生設計のうえで選択すると考えていたのです」(原院長)
しかし、ふたを開けてみると予想は大きく外れた。
「実際に卵子を凍結したのは、独身だけどパートナーがいないという40才前後の女性が多かった。
“結婚や出産の予定はないけど、卵子が老化する前にとりあえず凍結しておこう”と望むケースです。しかも、多くの女性は卵子を凍らせて保存したことで安心したのか、凍結後にパートナーを見つけたケースは少ない。その結果、32名のうち凍結卵子を用いて1名が妊娠出産しました」(原院長)
原院長は卵子凍結を実施するにあたり、病院内に倫理委員会を設置して、「採卵を行うのは42才まで」「満45才の誕生日翌日に凍結卵子を破棄する」という独自のガイドラインを設けていた。
「45才以上の高齢妊娠はリスクが高いので卵子凍結の廃棄を決め、患者からの同意も得ました。ところが、実際に45才になった患者の何人かが“卵子を破棄したくない”と言い始めた。医学的な危険性を説明しても聞き入れてもらえず、結局は保管年齢の上限が高い他の施設に移送しました。自分でタイの施設まで運ばれたかたもいます」(原院長)
高齢出産の危険を考慮した日本生殖医学会のガイドラインにも、〈40才以上の卵子の採取は推奨できない〉〈保存卵子を使った45才以上の不妊治療は推奨できない〉とあるが、現実にはこうした制限を超えても卵子凍結を求める人たちが続出したのだ。
原院長がつぶやく。
「“凍結しておけば安心”では問題の先送りにすぎません。凍結卵子が患者にとっての“安定剤”で終わってしまっては、もはや医療ではないですから」
熟慮の結果、原院長は2012年8月に新規の患者受け入れを中止した。
「凍結卵子よりも普通の体外受精のほうが成功率は高く、43才までは凍結は不要というのが私の意見です。
それでも、2年以内に結婚することを前提にしたパートナーがいて、今後数年は妊娠できない明確な理由があるかたが卵子の凍結を望み、当院の倫理委員会を通れば受け入れたいと思っています」(原院長)
※女性セブン2016年3月3日号