近ごろは「独居老人」の寂しく孤独な暮らしぶりが各所で取り上げられている。そんななか、高齢者の暮らし方について興味深い調査結果が発表された。
大阪府門真市にある、つじかわ耳鼻咽喉科の辻川覚志院長は、2012年から2014年にかけて、60才以上の1000人を対象に、自分の生活の満足度を100点満点で尋ねた。その結果、同居をしている人の平均点は「68.3点」、ひとり暮らしの人の答えは「73.5点」と、大きな差が出たのだ。
男女別や子供の有無ではこれほどの差はない。つまり、ひとり暮らしであることが、生活の満足度を左右させる要因となっているのだ。
アンケートを行った辻川さんも、当初は、その結果に驚いたという。
「予想外でした。ひとりでは寂しいだろうし、不安もあるだろうし。でも、同居によって寂しさや不安は解消されても、それが満足度の向上にはつながらないんです。同居をして孫の面倒を見ていても、頼られるばかりで、感謝されているという実感がなかったりすると満足度は大きく下がります」
神奈川県で暮らす74才の主婦には思い当たる節がある。
「主人と息子夫婦、その子供たち2人と同居しています。2人分も6人分も一緒なので、まとめて食事の準備をするのですが、食べてくれないこともあり、食べても無理矢理という感じが伝わってくることがあるんです。気を使ったつもりで『ママはゆっくり寝ていてね』と孫のお弁当を作っても、嫌みだと思われたみたいで…。このまま窮屈な同居生活を続けるのかと思うと、つらいです」
この女性のように、ストレスを感じると生活の満足度は下がる。
「もしこの先、息子夫婦が介護をしてくれるようになっても、彼らへの気遣いが加わって、やはり満足度は上がらないでしょう」(辻川さん)
一方の“独居老人”たちは、その生活をどう受け止めているのだろうか。
「人間だから寂しいと感じることもあるけど、ひとりなのは気が楽ですよ。もう少しお金に余裕があれば、いろいろなところに行けるのにな、と思う程度です」(横浜市・60代女性)
福岡県でひとり暮らしをする女性も、「ひとりでまったくいいです」と断言する。
「何時に起きてもいいし、テレビは何を見てもいいし、何を食べてもいい。自分自身がきちっとしないとだらけてしまうけれど、自由ですから」(福岡市・50代女性)
辻川さんによると、この2人の女性のようにひとり暮らしを楽しんでいる人たちには、3つの共通点があるという。
それは経済的な豊かさではない。「自由で勝手気ままな暮らしができていること」「住み慣れた土地に住んでいること」「信頼のおける友人が2、3人いること」という、誰もが選択し、手に入れることができるものだった。
特に1つめの「自由で勝手気ままな暮らしができていること」は、満足している独居老人全員が挙げた条件だ。
「やはりこれは大きい。どんなに高級な高齢者向け施設に入っても、そこにはルールがあるので勝手なことはできませんが、自宅なら気ままに暮らせます」(辻川さん)
※女性セブン2016年3月3日号