大学受験シーズンが本番を迎えるなか、ある「塾」が注目を集めている。2月10日、東大で初めて実施された「推薦入試」の合格者77人が発表された。各高校から推薦できるのは男女1人ずつまでという規定があるため出身校はバラバラだが、77人のうち14人にはある共通点があった。全員が「AO義塾」という学習塾に通っていたのである。
一般入試なら1つの学習塾から大量に合格者が出ることは珍しくないが、今回は前例のない推薦入試。その合格者の約2割を輩出した塾では、どんな指導が行なわれているのか。AO義塾の教務担当者が説明する。
「我々は、学科試験の結果で合否が決まる一般入試ではなく、自己推薦型の入試である『AO入試』の対策に特化した塾です。今年で創立6年目。慶応義塾大学にAO入試で入学した塾長の斎木陽平が、大学1年時に立ち上げました」
斎木塾長はまだ24歳という若さ。同塾は慶大を中心に過去5年間で約560人の合格者を輩出し、受験生からは特に「慶大のAO推薦に強い学習塾」として注目されている。
「授業には3つの軸があります。まずは『出願書類を作る』こと。書類は書き直しを重ねるほど良いものになっていくので、学生とコミュニケーションを取りながら作成していきます。
2つ目は『基礎力を養う』授業。面接試験で教授とハイレベルな会話をするための練習や小論文の対策。そして3つ目が、グループディスカッション(GD)の授業です」(同前)
加えて今回の東大の推薦入試では、別コースを設けて“東大専用”の対策を練っていたという。
「志望大学をよく理解している受験生のほうが、面接などの場面で有利になる。そのため今回は、東大生を何人か招いて塾生たちに面接をしてもらいました。『なぜ東大に行きたいの?』という問いかけに、訓練を受けていない高校生では月並みなことしか話せません。質問を変えながら何度も問いかけていくうちに、深い対話ができるようになるんです」(同前)
躍進の理由について大学ジャーナリストの石渡嶺司氏はこう話す。
「今回の東大推薦入試は要求水準が非常に高く、そもそも一般入試でも合格が期待できるような高校生ばかりが集まっていたとみられています。そのなかで合否を分けたのは、GDや面接での論理的思考力だったのでしょう。普通の高校ではそこまでの対策はできませんから、AO義塾出身者に有利にはたらいたのでは」
受験の変化とともに塾のあり方も様変わりしてきているのだ。
※週刊ポスト2016年3月4日号