【書評】『エロ本黄金時代』/本橋信宏・東良美季著/河出書房新社/1700円+税
【評者】坪内祐三(評論家)
昭和三十三(一九五八)年生まれの私(たち)は第一次オタク世代と言われているが、つまり、それまでサブカルチュアーと思われていたものをカルチャーの栄養素として育っていったわけだが、それ以降の第二次第三次(今や第五次ぐらいに達しているのかも知れない)オタク世代と異なるのは、活字大好き人間であることだ。
少・青年時代、マンガ雑誌もさることながら活字雑誌もバンバン読んだ。そういう中で大学に入り卒業して行く一九七〇年代末から八〇年代初め、エロ雑誌が大きく変わっていく。つまり、読み物頁が充実していくのだ。
佐伯一麦や山田詠美、あるいは大塚英志をはじめとして、この世代にはエロ雑誌やエロ漫画で業界仕事を始めた人が多い。本橋信宏や東良美季も同様で、しかも彼らは、先行する末井昭や中沢慎一や櫻木徹郎や奥出哲雄らをエースとすれば準エースとも言える人たちだから、この二人が「エロ本黄金時代」を語ったなら、つまらないはずはない。その予想通り面白かった。しかもここにはとても大切なことが語られている。
出版不況についての言説を多く目にするが、大手新聞社や出版社の人間あるいはそこそこ売れている小説家のそれは殆ど説得力を感じない。それに対して、ここではとても怖しいことが実証されている。
かつて十万部以上越えていたエロ雑誌も二〇一三年六月号で『ビデオ・ザ・ワールド』が休刊し、『ビージーン』(旧『べッピン』)が二〇一四年十月号で休刊する。
これは単なる活字離れではなく無料でもっと過激な画像を見ることの出来るネット文化の普及のせいだが、エロ雑誌がすべて消えてしまったということは、つまり、活字文化の終焉が近づいているわけだ。その影響は五年後すなわち東京オリンピックが終わる頃に大変なことになっているだろう。恐怖だ。
※週刊ポスト2016年3月4日号