国際情報

三橋貴明氏「日本の観光政策は韓国を反面教師とすべき」

経済評論家の三橋貴明氏

 この3年、韓国を訪れる観光客が激減し続けている。訪韓日本人観光客数は、2012年の352万人をピークに毎年右肩下がり。韓国観光公社の統計によると、2015年は前年比19%減の約184万人となった。そして、日本人の“韓国離れ”により、韓国では深刻な事態が起こっていた。経済評論家の三橋貴明氏が指摘する。

 * * *
 危機感を抱いた韓国観光業界は、韓国観光公社が「K-Smileキャンペーン」を展開するなど、国を挙げて外国人観光客を増やそうとしている。しかし、皮肉なことに、観光振興を掲げる中で、韓国は大きな課題に直面している。

 実は、韓国には海外から注目されるような名所・旧跡などの観光資源がほとんどない。残っていれば観光名所となり得た李氏朝鮮時代の歴史的建造物も、朝鮮戦争時などに破壊されてしまった。

 そもそも韓国人自身に、国内を観光旅行する習慣がないのである。格差社会が進み、マジョリティとなった貧困層は旅行する余裕などないのが現実だ。国内レジャーとしては「山登り」が盛んだが、その程度である。

 韓国国内では今、韓国ならではの伝統文化や観光名所の「開発」が必要だと叫ばれている。伝統文化や名所までを“開発する”という発想は、いかにも韓国らしい。

 しかし、韓国人自身が訪れたいと思う名所がない国に、果たして海外から外国人観光客がやって来るだろうか。訪韓外国人の増加を国家目標とする韓国にとって、今年は「自国における観光とは何か」が根源的に問われる一年となるだろう。

 一方、日本も、「20年に年間訪日客2000万人」の政府目標を安倍政権が3000万人に上方修正するなど、インバウンド効果に期待を寄せるのは韓国と同様である。しかし、韓国を見習うような政策は「およしなさい」といいたい。

 日本国内で使われる旅行消費全体のうち、訪日外国人の消費が占める割合はわずか7%(2013年)。93%は日本人が消費しており、韓国と外国人観光客を奪い合う必要はない。そもそも、外国人観光客を誘致して、経済を伸ばすという発想はもはや時代遅れだ。

 日本が観光政策で取るべき道は、インバウンドなどあてにせず、国民の所得を上げて豊かにし、国内旅行の需要をさらに拡大させることだろう。今再び、韓国を「反面教師」とすることが求められている。

【PROFILE】1969年熊本県生まれ。東京都立大学(現・首都大学東京)経済学部卒業。NEC、日本IBMなどを経て2008年に中小企業診断士として独立。著書多数。近著『中国崩壊後の世界』(小学館新書)が話題。

※SAPIO2016年3月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

現在はアメリカで生活する元皇族の小室眞子さん(時事通信フォト)
《ゆったりすぎコートで話題》小室眞子さんに「マタニティコーデ?」との声 アメリカでの出産事情と“かかるお金”、そして“産後ケア”は…
NEWSポストセブン
逮捕された元琉球放送アナウンサーの大坪彩織被告(過去の公式サイトより)
「同僚に薬物混入」で逮捕・起訴された琉球放送の元女性アナウンサー、公式ブログで綴っていた“ポエム”の内容
週刊ポスト
まさに土俵際(写真/JMPA)
「退職報道」の裏で元・白鵬を悩ませる資金繰り難 タニマチは離れ、日本橋の一等地150坪も塩漬け状態で「固定資産税と金利を払い続けることに」
週刊ポスト
精力的な音楽活動を続けているASKA(時事通信フォト)
ASKAが10年ぶりにNHK「世界的音楽番組」に出演決定 局内では“慎重論”も、制作は「紅白目玉」としてオファー
NEWSポストセブン
2022年、公安部時代の増田美希子氏。(共同)
「警察庁で目を惹く華やかな “えんじ色ワンピ”で執務」増田美希子警視長(47)の知人らが証言する“本当の評判”と“高校時代ハイスペの萌芽”《福井県警本部長に内定》
NEWSポストセブン
ショーンK氏
《信頼関係があったメディアにも全部手のひらを返されて》ショーンKとの一問一答「もっとメディアに出たいと思ったことは一度もない」「僕はサンドバック状態ですから」
NEWSポストセブン
悠仁さまが大学内で撮影された写真や動画が“中国版インスタ”に多数投稿されている事態に(撮影/JMPA)
筑波大学に進学された悠仁さま、構内で撮影された写真や動画が“中国版インスタ”に多数投稿「皇室制度の根幹を揺るがす事態に発展しかねない」の指摘も
女性セブン
奈良公園と観光客が戯れる様子を投稿したショート動画が物議に(TikTokより、現在は削除ずみ)
《シカに目がいかない》奈良公園で女性観光客がしゃがむ姿などをアップ…投稿内容に物議「露出系とは違う」「無断公開では」
NEWSポストセブン
長女が誕生した大谷と真美子さん(アフロ)
《大谷翔平に長女が誕生》真美子さん「出産目前」に1人で訪れた場所 「ゆったり服」で大谷の白ポルシェに乗って
NEWSポストセブン
『続・続・最後から二番目の恋』でW主演を務める中井貴一と小泉今日子
なぜ11年ぶり続編『続・続・最後から二番目の恋』は好発進できたのか 小泉今日子と中井貴一、月9ドラマ30年ぶりW主演の“因縁と信頼” 
NEWSポストセブン
第一子出産に向け準備を進める真美子さん
【ベビー誕生の大谷翔平・真美子さんに大きな試練】出産後のドジャースは遠征だらけ「真美子さんが孤独を感じ、すれ違いになる懸念」指摘する声
女性セブン
同僚に薬物を持ったとして元琉球放送アナウンサーの大坪彩織被告が逮捕された(時事通信フォト/HPより(現在は削除済み)
同僚アナに薬を盛った沖縄の大坪彩織元アナ(24)の“執念深い犯行” 地元メディア関係者が「“ちむひじるぅ(冷たい)”なん じゃないか」と呟いたワケ《傷害罪で起訴》
NEWSポストセブン