【書評】『6月31日の同窓会』/真梨幸子/実業之日本社/1620円
【評者】末國善己(文芸評論家)
読むと嫌な気分になるミステリー“イヤミス”の旗手・真梨幸子の新作は、名門女子校の卒業生たちのドロドロした人間関係を描いている。
神奈川県にある蘭聖学園には、「6月31日の同窓会」の案内を受け取った卒業生は、「お仕置き」をされるという奇妙な噂があった。
漫画家として成功した柏木陽奈子は、蘭聖で同級生だった大崎多香美が、猛毒のフッ化水素酸で死んだというニュースを見る。陽奈子は「6月31日の同窓会」の案内を受け取っていて、その直後に殺された。
蘭聖出身の弁護士・松川凛子は、次は自分が殺されるかもしれないと脅える蘭聖OGからの相談を受け調査を開始するが、「6月31日の同窓会」の案内が届いてしまう。
登場人物が多いうえに、本名とニックネームが混在し、誰が誰なのかを掴みにくくしている。さらに高校時代のエピソードと、現代で起こる事件も錯綜しているのだ。この複雑さが、事件の真相と犯人の存在を隠している。先が読めないので、迷路の中をさまよっているような感覚が味わえるのではないだろうか。
物語が入り組んでいるだけに、謎が解かれた時の驚きは大きく、終盤に待ち受ける二重、三重のどんでん返しには、圧倒されてしまった。
名門女子校出身者の愛憎劇は、学生時代に負った心の傷、昔は見下していた同級生が成功したことへの嫉妬、かつての夢とは程遠い現状への不満などを浮かび上がらせていく。これは目を背けたくなる醜い感情だが、大人になれば誰もが心の奥に秘めているのも間違いない。それだけに、著者が描くダークな事件が、より恐ろしく感じられるはずだ。
※女性セブン2016年3月10日号