プロ野球のキャンプをかつての名選手がスーツ姿で訪れるのは、スポーツニュースなどでおなじみの風景だ。グラウンドで体を動かす現役選手たちの姿を見ると、ついつい昔の血が騒いでしまう気持ちが分かるが、困った事件もあるようで……。
マスコミは通常、グラウンドではベンチ周辺にしか立ち入れない。だがOBは打席の近くまで自由に入っていき、打撃ケージの裏で監督やコーチ、選手と話しながら練習を観察できる。新聞社やテレビ局が評論家と契約するのも、こうした場所で記者が入手できない情報や雑談内容を記事にするためだ。球団側も大切なお客様なので、ぞんざいには扱わず最敬礼で迎える。
「通常、取材者は『取材票』を首からぶら下げるのがルール。ですが、それをお願いすることすら失礼に当たる方もいるので、大物OBは基本的には顔パスです。選手が使う球場内食堂では飲食フリーの待遇だし、監督室にお通しして、温かいコーヒーでも出して監督と話をしてもらいます。選手への指導が始まったら止めることはできません」(パ・リーグ球団スタッフ)
OBとしてはそこまで待遇良く迎えてくれるのだから、自分の知識をかわいい後輩に授けてあげようという気持ちになるのだろう。だがそれが“悲劇”を生むこともある。
「パ・リーグ一筋で活躍したある本格派左腕のOBは、今の科学的トレーニングを否定する人。“とにかく走り込め”とアドバイスし、実際に走らせる。それで選手が2~3日、想定外の筋肉痛で使い物にならなくなる、なんてことは毎年あります。だから“あの人はいつ来るんだ”と所属するメディアに毎年確認して、来る日にはつかまらないよう別メニューを組んでいる」(パ・リーグ球団コーチ)
「ある大物投手が、即戦力といわれた新人投手を指導して壊したことがある。監督に“見てやってください”とお願いされて気を良くしたことが原因。新人投手は肩の張りを訴えて別メニューの予定だったが、OBがジャケットを脱いで実演し始めたものだから、延々投げさせられた。後日、その選手は故障して開幕に間に合いませんでした」(スポーツ紙記者)
酷いケースはチームの和を乱すこと。
「両リーグで活躍した大物投手の癖は、一番の古巣の球団に行くと、必ずコーチを呼びつけて文句をいうこと。コーチはペコペコするしかないのだが、見ていた選手たちが、コーチをバカにするようになる。アドバイスを聞かなくなって困ると、コーチが嘆いていた」(セ・リーグ球団関係者)
※週刊ポスト2016年3月11日号