今年も多くの球界OBが、各地で行われているプロ野球キャンプを視察に訪れた。しかしプロ野球も80年以上の歴史を持ったことで、最近はある問題が浮上している。セ・リーグ球団のコーチ経験者が嘆く。
「選手がOBのことを知らないんです。監督やコーチが“教えてやってください”と気を遣って選手の元に連れて行っても、明らかに“あんた誰?”というような顔をするヤツが増えた。我々も現役時代、知らないOBが来ることはあったが、愛想笑いで何とかかわしていたのに。そういう世代なんでしょうかね……」
2006年に起きた事件は記憶に新しい。巨人・宮崎キャンプを訪れていた400勝投手・金田正一氏に対し、原辰徳監督が内海哲也を呼んで挨拶させた。これが落とし穴だった。
内海は金田氏のことを「カネムラさんですよね」と語り、何勝したか聞かれ「300何勝」と答えてしまったのだ。この時偶然、OBの広岡達朗氏も球場を訪れていたため、広岡氏が激怒。選手を集めて雷を落とした。
昨年も似たようなことがあった。1月13日に行なわれた日本野球機構の新人選手研修会では、選手たちが国民栄誉賞の衣笠祥雄氏を知らず、講師に立った元広島の山本浩二氏が絶句する一幕があった。選手たちは野球殿堂を見た後だったにもかかわらず、である。
かつて大物だったOBが精神論を中心とした熱血指導を行い、現役選手が困惑するような例は少なくないが、偉大な先輩を知らない、知ろうともしない後輩がいるならば、難儀なOBだけを責めるわけにはいかない。
※週刊ポスト2016年3月11日号