男性は、好きになった女性になにごとか頼まれると弱いもの。彼女にせがまれて高級車を買ったは良いが、交際が終了したのにもかかわらず、彼女に預けていた車を返してくれない場合、どうすればよいか? 弁護士の竹下正己氏が回答する。
【相談】
彼女にせがまれて350万円のミニクーパーを購入。普段は彼女が使用しているのですが別れることになり、返却してもらおうとしたところ、「車は返さない」の一点張り。名義は私なのに、今でも乗り回している彼女は罪にならないのですか。なにより車を取り返すには、どうすればよいのでしょう。
【回答】
彼女が乗り回している限りでは、罪に問われることはありません。しかし、返してもらう理屈はあります。資金を出して自分の名義で買ったのですから、車の所有権があなたに帰属することは間違いありません。貰ったというためには、彼女は贈与を受けたことを証明する必要があります。
民法では書面によらない贈与は取り消せるので、口頭の贈与は取り消せるはずですが、贈与の履行が終わっていると取り消しができません。所有権の移転があれば、登記される不動産の場合も引き渡し済みになると、履行があったと解され、取り消しできないようになっています。登録制度の自動車も同じでしょう。
そこでポイントは、彼女に車を渡したのが贈与だったか、貸しただけなのかになります。証人もなく二人だけのやり取りでは水掛け論になりますが、贈与の動機の有無、贈与物の重要性など様々な要素で判断されます。ぽんと350万もの車を買えるあなたが相当な高給取りで、一般の人が自転車を買う程度の金銭感覚であれば、好きな女性に贈与したと認められる可能性があります。
しかし、平均的なサラリーマンであれば、350万円の車を婚約もしない女性に買い与えるまでのことはしませんし、婚約の場合は、解消すれば戻されます。よほど惚れ込んだ場合でない限りは、贈与と解されることはないと思います。
取り返すには、引き渡しを求める裁判で判決をもらうしかありません。ですが、車は容易に移動され、隠されると判決があっても取り戻せません。その場合、お金での賠償も検討可能ですが、資産もない女性であれば実現できません。現実に車を押さえる必要があります。そのためには、まず仮処分という手続きで自動車を確保することになります。素人では無理なので、弁護士に相談してください。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2016年3月11日号