プロ野球キャンプを巡る報道を見ると、大物OBがキャンプ地を訪れ、「急遽、○○に指導を行った」といった類の記事がしばしば見られる。時に「ガーンと行け」などの精神論に頼りがちな大物OBの指導は、その是非が問題視されることもあるが、OBたちは、ただ威張りに行っているわけではない。それぞれが球界を良くしようと考え、また彼らなりに努力をしている。
例えば近鉄などで活躍した若手OBの一人である金村義明氏は、評論家になった当初から、キャンプでは朝一番に球場に行って選手を迎え、12球団すべてを回ることを心がけていた。栗山英樹氏も12球団を回る真面目な性格で知られ、その評価もあって、現在の日本ハム監督の座を掴んだともいわれている。
ヤクルト、巨人、阪神で4番を打った広澤克実氏は、こう語る。
「僕は大御所でもないし、それほど実績もない。だから評論家としてキャンプを視察に行ったときには、絶対に練習内容には口出しはしません。現場のコーチに失礼ですから。子供たちの野球教室でも同じこと。いつも指導者が右と教えているのに、一度だけ訪れた僕が左と教えたら、子供たちにも指導者にも申し訳ないと思うからです」
若いOBには広澤氏のような考え方を持つ人物が増えた。一歩引いた立場で球界を支えている。
その意味では確かに指導してしまうのは大御所と呼ばれるOBが多いかもしれない。だが彼らは、現在の選手が到底届かないような大記録を打ち立てた実績、さらにはプロ野球の黎明期を支え、現在の繁栄を導いた立役者でもある。
そのおかげで今のプロ野球があるという感謝と、敬意は忘れてはならない。選手にはOBの言葉に耳を傾ける義務があるのだ。「ありがた迷惑」だなんて思ってはいけないのである。絶対に。
※週刊ポスト2016年3月11日号