映画『エヴェレスト 神々の山嶺(いただき)』(3月12日公開)で、世界最高峰の頂を目指す登山家・羽生を演じ、極限の撮影に臨んだ阿部寛(51才)。標高5200m、氷点下50度、断崖絶壁での迫真の演技秘話を聞いた。
撮影地点までの移動の時間など、羽生を追う写真家・深町役の岡田准一(35才)は、役作りもあって、阿部にカメラを向け続けた。その写真は、阿部を超えて、羽生そのものになっており、感心したという。
羽生を慕い、深町とともに山に挑む涼子役を演じた尾野真千子(34才)もエヴェレストでの撮影に参加している。
「岡田くんはストーリー性のあるかっこいい写真を撮るんですよ。しかし、岡田くんも尾野さんも屈強でしたね(笑い)。体力面での心配もなかったし、トイレがなくても不平不満もなかったし。そういう意味では楽しい仕事でしたよ」(阿部・以下「」内同)
――映画には、山を通して結ばれる友情とか愛とか、そういう心も感じられましたね。
「山と、そしてそこを目指すお互いへの尊敬の気持ちというのか、侍の世界の美学に通ずるような精神性というか、チーム力というか、そういうものも表現したいと思っていたんです。実際に約60人の撮影陣が誰ひとり脱落することなく、撮影を終えられたんで」
撮影隊がベースキャンプとした5000mの高さには、近くにアメリカの登山隊がキャンプを設営していた。そこに、3~4時間かけて訪問したと、阿部はさらりと語る。同じ標高地点に片やプロの登山家が滞在していた光景を思うと、もはやフィクションの域を超えているではないか。あらためて映画人(活動屋)の熱い思いに敬服しきりだ。
――演じた羽生への思い入れや役づくりで心がけたことはありますか?
「映画の主役は山じゃないかと思ったんで、細かいことは考えないほうがいいと思いましたね。日本を捨て、家族を捨ててまで、エヴェレストに賭けた男なんですね、彼は。そのとてつもない情熱、むき出しの思いだけでいいんじゃないかと。実際にそのほかのことは考えられなかったし」
――情熱…ですか。久しぶりにその言葉、聞きました。
「そうですね。今って、情熱の強さを表に出しにくい世の中だと思うんですね。だからこそ、逆に羽生の情熱の強さに感動するんだと思う。羽生のあきらめない精神に、その後ろ姿に“熱すぎるな”でも“すごいな”でもいい、何かを感じてもらえればいいなと…」
――身近に羽生のような人がいたら、私はきっと好きになると思います。でも、彼は私なんて…。
「羽生に見つめられたら、“それだけで妊娠します”と言った登山家(男)がいるけど、その気持ちわかりますか(笑い)」
――ええっ!?(と、大きな目で見つめられて、タジタジの私に…)
「そのくらい見つめるものはひとつ、シンプルに、迷わず突き進んでいく人間、羽生を、この年齢でやれたことは、自分の力になれたと思います」
取材・文■活動屋映子 撮影■矢口和也
※女性セブン2016年3月17日号