オートロックで施錠され、監視カメラで厳重に管理された入り口から敷地に入ると、目の前に噴水のある広場が現われる。広場のベンチには白髪の女性が静かな笑みを浮かべながら腰掛け、その先に続く通りでは80代と思しき男性の車椅子を、家族と思われる中年男女が押しながら談笑している。レンガ風の外装の建物が建ち並び、スーパーやカフェも軒を連ねる──。
オランダの首都・アムステルダムから車で20分ほど走った田園地帯にある、3~4メートルほどの高い塀にぐるりと囲まれた“村”の光景だ。この村は、オランダ企業のヴィヴィウム・ケアグループが運営する介護施設「ホグウェイ」である。
介護が必要な高齢者が集団で暮らしてケアを受ける、日本でいうグループホームのような施設だが、2012年頃から英紙『ガーディアン』、米紙『ニューヨーク・タイムズ』をはじめとする世界の主要メディアが取り上げてきた。ホグウェイの広報担当者が説明する。
「ここは2009年に開設された介護施設ですが、入居できるのは認知症患者だけで、現在152人が暮らしています。他にはない特徴の一つとして約1万2000平方メートル(甲子園球場のグラウンド面積とほぼ同じ)の敷地がひとつの『街』のように機能していることが挙げられます。住居だけでなく、カフェやスーパーマーケット、映画館など、入居者がくつろげる環境を整えています」
この構想を発案したのは現地の老人ホームで働く女性ヘルパーたちだった。そのうちの1人が、ホグウェイの創設者であり現在の施設代表者のイヴォンヌ・ファン・アーメロンヘン氏だ。
「現代表を含め、発案したヘルパーたちの両親は認知症やアルツハイマー症を患って亡くなりました。彼女たちは、“両親に適切なケアを受けさせてあげられなかった”という後悔の念から、リサーチと研究を重ねました。その末に、患者を病院や施設に閉じ込めるのではなく、極力それまで通りのライフスタイルを送らせてあげることが、どんな治療にも代えがたいケアになると結論づけたのです」(同前)
そして生まれたのが、一つの村ごと施設にしてしまう「ホグウェイ」だった。敷地内には、約250人のスタッフが配されている。ここまで大規模な取り組みは、福祉に手厚い欧州でも他に例がなく、英紙『ガーディアン』が「認知症患者のためのテーマパーク」などと報じたことで注目はさらに高まった。