1月末の「マイナス金利導入」の発表を機に、日本人のマネー観は大きく揺さぶられた。「もう、銀行にカネを預けたって意味がない」──そんな声が、そこここで聞かれるようになった。
2月16日のマイナス金利導入を受け、大手銀行は軒並み、普通預金の金利を0.001%という水準まで引き下げた。もともと雀の涙ほどの金利(0.020%)ではあったが、それがいよいよ“ゼロ”になったインパクトは絶大だった。都内に住む50代の男性はため息をつく。
「10万円を1年間預けて、1円しか利息がつかないなんて馬鹿馬鹿しい。ATMの時間外手数料などを考えれば、一般の預金者にとっても事実上のマイナス金利ですよ。普通預金と定期預金の金利を同じにした銀行があるということにも怒りを覚えます。
定年後に向けた蓄えを考えると、銀行は全く頼りにならない。利回りがマイナスになる国債にも手を出せない。一体どうすればいいんだ」
銀行預金も国債も頼りにならず、株価も乱高下を続ける中で、投資先として俄然注目が高まっているのが「金」である。資産運用先として、新たに金投資を選んだ70代男性はこういう。
「定期預金を解約して、その一部を金投資に回しました。金はいつの時代も希少価値があるし、劣化しない。現金を貯めているとどんどんマイナスになる世の中なのだから、実物として価値のあるものを持っておくしかないでしょう」
貯金を取り崩してでも金を買いたいと考えているのは、この男性だけではないようだ。年初からの株価乱高下や為替の激しい値動きを尻目に、金だけは右肩上がりに上昇を続けている。
金価格の国際指標であるニューヨーク金先物相場を見ると昨年12月末には1トロイオンスあたり1060ドル台だった価格が、今年2月末には1240ドル台をつけている。わずか2か月で、20%近い急上昇を見せた。しかも、まだまだ高くなると専門家は見る。スイス銀行で外国為替貴金属ディーラーを務めた経済アナリスト・豊島逸夫氏はこういう。
「年初の時点で、年内の上値は1400ドルとみていました。この急上昇を受けてもまだ上昇余地があるということです」