山口組の守護神──そう呼ばれた男が、分裂騒動の最中、静かにその役を降りた。山之内幸夫元弁護士、70歳。山口組の顧問弁護士として名を馳せ、極道の世界の内幕を描いたベストセラー『悲しきヒットマン』の著者としても知られる。なぜ彼は、正義とは対極の男たちの弁護を引き受けたのか。
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山口組の顧問弁護料は月20万円でした。もっともらっていたのではと勘ぐる人もいましたが、そんなもんです。高くも安くもない。僕が引き受けたのは、お金のためではありませんから。
弁護士になったばかりの頃、たまたま暴力団関係の仕事を受けていたんです。その縁で、1975年に起きた大阪戦争(三代目山口組と二代目松田組の抗争)のとき、宅見(勝=のちの五代目山口組若頭)さんの弁護を引き受けた。
そこで信頼され、山口組の顧問弁護士になって欲しいと頼まれたんです。最初は迷いました。弁護士の評判に傷がつくのではと心配しましたし、家族も嫌がっていましたから。でも、最後は好奇心が勝ちましたね。ヤクザの世界を知りたい、という。
憧れとは、違います。彼らがいいことをしているとは思ってません。ただ、落ちこぼれた人間が這いずり回っている姿に同情してしまうんでしょうね。大阪・黒門市場の小さな魚屋で育ったせいか、体質的に権力側につくのは合ってない。はぐれている少数派に味方したくなるんです。
●やまのうち・ゆきお/1946年、大阪府出身。早稲田大学法学部卒。1972年司法試験合格。1984年頃より山口組顧問弁護士に。1988年、『悲しきヒットマン』を上梓しベストセラーに(のち映画化)。2014年末、建造物破損の教唆の罪で起訴され、2015年末、有罪判決確定。弁護士資格を失う。
※SAPIO2016年4月号