【マンガ紹介】『ニュクスの角灯(ランタン)』(1)/高浜寛/リイド社/1077円
暖かくなり春が近づくと、不思議となにか新しいことが始まりそうでそわそわします。そんな季節にぜひおすすめしたい新作が高浜寛『ニュクスの角灯』。
1878年、明治時代の長崎。戦争で親を亡くした美世は、世界中の珍しい物を集めて売る道具屋「蛮」で働くことになります。
瓶底メガネにふわふわ巻き毛。外見も中身も風変わりな店主・百年が仕入れるのは、ダニエル・ペーターのチョコレートにジャック・ドゥーセのドレス、シンガー社のミシンなど、見たことも聞いたこともない品ばかり。
触った物の過去や未来が見える神通力を持つ美世の仕事が、新しい時代とともに始まります…!
着物と下駄から洋服と靴の世界へ。和と洋が折衷した当時の日本は、今の私たちが読むとエキゾチックで新鮮。時代の空気や湿度すら感じさせる絵に引き込まれます。
「悪い時代の後には 必ずいい時代が来る/甘いものでも食べて元気だしな」。一見変人のようですが初対面の美世にこんな殺し文句をさらりと投げかける百年は、魔法使いのように魅力的。読み書きができない美世に文字を教え、『不思議の国のアリス』の本をプレゼントする柔らかさも素敵です。メガネをはずすシーンは第1巻のクライマックスといっても過言ではありません。謎めいた百年の生い立ちについては今後の展開が待たれるところ!
新しい扉が開いて女性が自分の人生を生きる力を獲得していくトキメキの一方で、実は物語は太平洋戦争末期の1944年から始まります。読みながらふと、私たちには次にどんな時代がやってくるのか、考えてしまいました。
(文/横井周子)
※女性セブン2016年3月17日号